お先に。

@sora_skyblue

早すぎる友達

私にはちょっと不思議な友達がいる。

友達と言っていいのかもわからないのだけれど。

その友達の名前は「神崎 ひかる」。私と同じ女子陸上部に所属していて、顧問から誰よりも期待されている。

彼女とは幼馴染だ。同じ陸上教室で何年も一緒にいたが、一度として彼女に勝てたことはなかった。

スピードは同じくらい。ゴール直前までは彼女と綺麗に並んで走るんだ。だけど、いつも最後の最後で彼女は私を抜いて、競争の終わりのホイッスルの音が鼓膜を揺らす。

彼女は私を追い抜く時、いつも

「お先に。」

と言うんだ。小さい頃からずっとそうだから、おそらく癖なのだろう。

「…何考えてるんだろ。葬式だってのに。」

私の瞳に映るのは、瞼を固く閉じ、棺の中で横になった神崎ひかる。

…私が殺したようなものだ。

私は軽いいじめにあっていた。理由は本当によくわからない。どうやら私がただ直向きに部活に取り組んでいた時に、一人の男子が私に惚れ込んでいたらしい。その男子に想いを寄せていた女生徒が嫉妬したとか…理不尽にも程がある。

物を隠され、水をかけられ、他にもいろいろ…

いじめに耐えられなくて、いっそ死んでしまおうとマンションの屋上のフェンスに足をかけた時に、勢いよく屋上の扉が開いて、私の横を一人の影が通り過ぎた。ひかるだった。私の方が先に屋上に来たはずなのに、ひかるは私よりも先に屋上の縁に足をついていた。

あぁ、彼女は私よりも遥かに早かったんだ。

友達が危ないのに、そんな余計なことを一瞬でも考えてしまった。

ひかるは薄い唇を微笑むように歪め、切なげな声で

「お先に。」

と言い、私の静止も聞かないで飛び降り、この世を去った。

もう目を開けることのない彼女に手を合わせ、頬を伝う生暖かい雫を地面に落とし、掠れた声で言う。

「早すぎだよ。」

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