0-2 相棒はいつもつれない
目星はニヤニヤ笑いながら目の前の山舘にフォークを向けた。
「で、一回も掛けて来なかったわけだが。何か分かりましたか~?
〝シルバーバレット〟さんよぉ」
「その名前はよしてくれよ……。今日は白ヘリ使ってないし……」
ここぞとばかりに十月府に根付く裏社会のメンバー達に付けられた渾名を呼んで
時刻は20時、各々の調査を一旦切り上げて署に戻ってきた二人はぴったり食堂の前で鉢合わせた。この時、目星は何やら数冊の本を抱えていた。表紙を見てみると薬理やら人体の専門書である。誰にも言わないが努力家な目星のこと、『新種』についての手掛かりがないか探すのだろう。山舘は邪魔をしないように別の席に座ろうと考えていたところ、目星が何の注文もせずに中に入ろうとしたので慌てて引き止めた。そして「食事を抜くのは良くない」と強制的にメニューを選ばせて食券を買ってあげた後、なんのかんのと言い合いながら同じテーブルに座って夕食を摂っているのだった。
「そう言う誠志くんは何か分かったの?」
「勿論!」
目星は山舘の言葉を受け、待ってましたとばかりに勝ち誇った笑みを浮かべた。
「今回の害者が接種していたのは『
目星は小馬鹿にした調子で得意げに、閉じた片目をトントンと叩いて見せる。そんな挑発も目に入らない様子で、山舘は俯いて口元に手を当て、何かブツブツ呟いていた。今はバディと銘打たれているが、元は警察学校時代からのライバルである二人。これは山舘もさぞ悔しかろうとばかりにふんぞり返って返答を待っていると、彼はパッと顔を上げた。その目――
「すごいよ! 誠志くん!」
――宝石の如く透き通った瞳には、溢れんばかりの光が瞬いていた。
「僕じゃきっと一日でその情報まで辿り着けなかった。やっぱり誠志くんの観察眼は並外れていろんなものを捉えられるんだね、いつも本当に頼りになるなと思ってるんだ!」
目星は目から聖なる光線でも出ているかのようなその視線に、ギリ、と奥歯を噛んで目を逸らす。目星はいつもそうだった。何か手柄を上げると得意になって山舘に話すが、手放しに褒められると反対に調子を失って「違うんだよな」と言わんばかりに気怠そうにするのだ。今日も、何故そのような反応をされるのか理解できず「あれっ」という顔をする山舘に溜め息を吐き、緩慢に、ハンバーグに付け合わせてあるブロッコリーをフォークで刺した。
「あ~……で? 今晩から夜勤明けですけど、羽梟はこの後どうすんの?」
「あ、そうだね。3時間くらい仮眠を取ったら街の方を見に行ってみるよ」
「は? 死ぬ気? 明日も乱用防止教室やるんだろ?」
つまり一日を超えて連続で働こうというのだ。しかし山舘は疲労など感じさせない力強さで熱弁した。
「だって、誠志くんがこんな重要な手掛かりを見つけてくれたんだよ!? 彼のためにも住民の皆さんのためにも、早く犯人を捕まえないと」
「あのさぁ……寝不足なんかでお前がおっ
「大丈夫、不思議と眠くないんだ。本当なら仮眠ももったいないくらい!」
「なんかキメてる??」
「失礼な」
山舘はようやく眉をしかめ、ムッとした表情を浮かべた。それも一瞬のことで、その後はすぐに昼間の青空みたいな笑顔を浮かべる。
「そうだ、ヘリを出すからさ、キミも来てくれないか? 助手席で寝ててもいいから……」
「
山舘の動きが止まった。目星はそれが目に入っていないようで、綺麗に揃えた食器を前に「ごちそうさま」のポーズを取って、そのまま横に置いていた本を手に取る。
「こちとらお前みたいに体力オバケじゃね~の。オジサンついてけねぇよぉ~」
「だから、同い年じゃないか……」
いつものツッコミにも力が入っていない。自分でもそれに気付いて、口元を覆った。
「あの、ね。誠志くんが一緒に居てくれたら、きっと、もし僕が」
「え、なに言ってる? 聞こえねぇんだけど」
本の向こうで目星がこちらを見ているのに気付き、山舘はにこりと笑顔を浮かべる。
「ううん! 睡眠は大事だからね! 特にキミはとっても頭が良いから」
「それ、嫌味かなんか?」
本心で言ったのだが、鋭く睨まれてしまった。
「え、そんなつもりじゃないよ!」
「俺が勲章の数で並んでから言ってほしいぜ」
そう言って目星は自分の制服に付いた小ぶりな勲章を指先で弄る。目星の制服にはそのバッジしかついていないが、対面の山舘は制服を飛び越えて、いつも身に着けているヘリクルージャケットにまで付けないと間に合わない数の勲章を輝かせている。今回こそ目星が先んじて手掛かりを掴んでいるが、山舘が単独かつ、たったの一日足らずで解決した事件は数知れず。自分が新聞一面の常連である事実を、山舘だって理解していないとは言えない。
「それは……でも、謝らないよ。キミは本当に賢い人だと知ってるから」
「さぁ、どうでしょうね~」
声はおどけた調子だが、目星の顔は本に隠れてしまって分からない。これ以上なにか言うと更に逆鱗に触れそうだと考え、山舘は食べ終わったお皿を重ね始めた。
「お皿、一緒に下げとくね。ゆっくり読めるようにコーヒーも置いとくから」
「おっ、ありがと~。助かるぜ、おにーちゃん♡」
席を立った山舘は、背中に掛ける声だけでも明るい調子を保ってくれる目星にホッとするばかりであった。
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