紫煙が解ける 番外編
Δtlafika
山舘羽梟 vol.1 Blue moon
0-1 桜の下
残酷なものほど、夢のような心地をまとっているものだ。巨木の根本で、乾き始めた鮮血と淡い桜色とが混ざり合う物体を見詰める刑事、
「うげ~。これぁ酷い」
遅れて丘を登って来た相方、
一方、場数を踏んだ組織犯罪捜査官である二人は、凄惨な遺体をつぶさに観察しながら淡々と拾った情報を共有する。
「腐臭はしてないな。明け方から少し前に遺棄されたものだろうね」
「そりゃそうでしょーよ、まだ
「うん、僕もそう思う。骨折箇所が複数、顔での個人の判別は不可……内臓の状態を見るに、健康状態は生前から芳しくなさそうだ」
「健康状態で言やぁ、この色具合は……」
目星はサクサクと芝生を踏んで遺体に近付く。踏まれた芝生が弾く朝露に混じり気がないのを見るにきちんと血の流れている部分は避けているようだが、山舘は咄嗟に制止をかけた。
「あっ、誠志くん! 動かしちゃダメだよ」
目星はその子どもに言い聞かせるような声音に「また出た」と言わんばかりの顔をしながら「ハイハイおにーちゃん」と返して被害者の直前にしゃがみ込んだ。遺体は骨や筋肉の発達具合から見て、まだ思春期の青少年であることが見受けられた。
「ったく、よくまぁこんなオッサンを子ども扱いできるもんだと思わん? お前さんのほうがよっぽどガキだってのになぁ? 可哀想に……」
と、目星は遺体の桜の花びらで覆われた顔に向けて話しかける。目星が踏んだ後を追って近付いた山舘が、腕を組んで困り顔を浮かべた。
「また同い年なのに年寄りじみたこと言って……」
すると目星は振り返り、ビシリと指をさした。
「そ〜です同い年! 分かってんじゃねぇか」
「う、すまない」
素直に謝る山舘にやれやれと肩を竦める。目星は改めて遺体に向き直り、胸元のポケットから現場検証用のルーペを取り出して眺め始めた。
「い~……皮膚ズタボロだけど、やっぱこの穴、注射痕だぜ。ヤク中ぽ~い。また新種かな……」
それを受けて山舘は「やはり多くなってるね」と呟いた。
十月府が急激に治安を悪くした理由は、地衣類のように
山舘は近くの鑑識官に声を掛ける。
「キミ、簡易検査キットは持っているかな? 調べてみてくれないだろうか?」
「ああ、さっきからやってるんだけどね、どの種類もイマイチ反応が悪いんですよ。これは新種かなぁと。あれの検査薬はまだありませんから、科捜研行きですね」
「なるほど……ありがとう」
数ある薬物の中でも、先程から話に出ている『新種』は最近発見されたばかりの新たな薬物だ。成分の全体的な解析が終了しておらず、何が中毒性を持っているのか分からない。当然まだ法にも記載されていないため、巷では接種しても法に触れないドラッグ……脱法ドラッグとして静かに取り引きがされている。被害者数は圧倒的に青少年が多い。今回の子も、おそらくはそのような被害者の一人なのであろう。取り扱い側の可能性も視野に入れなければならない。
山舘は捜査手帳に情報を書き込むと、目星の肩を叩いた。
「こんな事件、二度と起こしちゃダメだ! 誠志くん、早速捜査に行こう!」
「どこに?」
目星は遺体から目を離さずに返す。その声は冷静なようにも、冷ややかなようにも受け取れた。
「遺体はここにあんだぜ? 手掛かりだってまだ残ってるかも知れんだろ。聞き込みに行きたいなら一人でどーぞ。俺ぁここに残って調査してるからよ」
「そ……っか。うん。誠志くんの観察眼はすごいから……分かった、じゃあここはよろしく頼む! 僕のほうでも何か分かったら連絡するよ!」
「へーへー。じゃあな、羽梟」
山舘は、一度も視線を向けないままひらひらと手を振る目星に口を開きかけ、グッと口角を上げて「無線機は忘れないでくれよ!」とだけ言って踵を返すのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます