第13話 レベルが上がらなくて困ってます(中編)

「うっ…うぅっ…。もしかして、二人は重量オーバーだった?」


 アリアは箒が墜落した理由がわかっていないため、そんなことを口にしながらなんとか立ち上がる。

 そしてそんなアリアの姿を目にしたオークは、元々興奮状態であったものの、獲物である女性が二人に増えたことで、より一層興奮してしまった模様。


「ブゴゴゴゴゴゴゴォォッ!」


 もしこの興奮した♂オークに襲われたら、アリアとユヅキはとても絵には描けないような凄惨な状態になってしまうことは間違いない。


 だが所詮オークはオーク。

 まだあまりレベルの上がっていない勇者にとっては危険な相手であろうが、すでに突然変異種のサイクロプスを倒しているアリアにとっては、それよりもはるかに格下の相手。

 倒すことは決して難しくないはず。


「ええいっ!」


 アリアは手にした箒を何度かくるくると回転させてから、箒をオークに向けて振り下ろした……が、箒からは何も放たれない。


「……あれ?」

「ブゴゴォォォッ!」

「ア…アリアさんっ、オークがぁっ!」

「だ…大丈夫ですわ。今度こそ……えいっ!」


 アリアはもう一度同じように箒を回転させて風のマナをかき集めてから、オークに向けて風の魔法を放とうとするものの、やはり何も発動しない。


「ど…どうしてこんなことに……」


 アリアは箒の魔導具で魔法が放てなくなったことにひどく動揺しているが、この箒で魔法を放てない理由は明白。

 オークに怯えたユヅキがアリアに抱き着いているせいで、箒で集めたマナが霧散してしまっているからである。


 この状況をどうにかするためには、アリアはユヅキを自分の体から引きはがせばいいわけだが、アリアはこの魔導具が自分にしか使いこなせない理由を知らないため、その考えには至らない。


「まさか、壊…」


 アリアは先程の墜落の衝撃で、箒の魔導具が壊れてしまったと思っている模様。

 だが箒の魔導具が使えなかろうが、オークは容赦なく襲い掛かってくる。


「ブゴォォォ!」

「きゃあぁぁぁっ! アリアさーんっ!」

「あわわわわわっ…」


 ユヅキに強くしがみつかれて魔法の放てないアリアは、もうどうしたらいいのかがわからず完全にテンパっている。

 その状況で、アリアがとった行動はというと…


「ええいっ!」


 もうやけくそになって、使えない箒をオークに投げつけたのである。

 だが、このアリアの行動が功を奏した。


 アリアの手元から離れた箒は、くるくると回りながらオークめがけて飛んでいくが、その間に箒は大気中の風のマナをかき集めていく。

 そして非力なアリアの手で投げられたことで、箒はオークのもとまで飛んでいかず、オークの少し手前の地面に落下。


 その結果、箒でかき集められたマナはオークの持つ魔力によって霧散することもなく、箒が地面に落ちたショックで風の魔法が発動したのである。


「ブゴッ…ゴォォォッ!」


 箒から噴き出した嵐のように強力な風は、丸々と太ったオークの体をも吹き飛ばして転倒させる。

 そしてこのことで箒の魔導具がまだ壊れていないことに気づいたアリアは、慌ててユヅキの腕を振りほどいて、箒のもとまで駆けて行った。


「ブゴ…ゴッ……」


 オークはただ転倒しただけで、まだそれほど大きなダメージは負っていない模様。

 だが、体の重いオークが起き上がるまでにはまだ時間がある。


 急いで箒を手に取ったアリアは、すぐさまその箒を地面にこすりつけて土のマナをかき集める。

 そして…


「落ちて…」


 アリアが箒を地面に叩きつけると、オークの真下にちょうどオークの体がすっぽりはまるサイズの穴が開き、オークはその穴に落とされてしまった。


「ブゴーッ、ブゴーッ!」


 今のオークは下半身が完全に穴にはまり、上半身のみが穴から飛び出している状態だが、アリアが箒の土魔法で作った穴とオークの腹回りがちょうどピッタリ同じサイズなため、オークはどんなにもがいてもこの穴から抜け出せない様子。


「はぁっ、はぁっ、なんとか間に合った……」


 この落とし穴の魔法は、十分にマナをかき集める時間がなく、オークを攻撃魔法で仕留められるか不安だったアリアの苦肉の策であるが、結果としてこれは、ある意味都合のいい状況を生み出したのかもしれない。


「す…すごいです、アリアさん…いえ、アリアお姉様っ!」

「え?」


 アリアはユヅキのお姉様となった…が、ユヅキは十七歳。

 ユヅキのほうが年上である。


「あんなにも恐ろしい魔物を倒してしまうだなんて、さすがお姉様…」

「……………」


 アリアはお姉様扱いされたことに戸惑っている…が、これはこれで大人っぽく見られたということかも…と思い、あえてお姉様呼びに関しては否定しなかった模様。


「ええっと、ユヅキさん…」

「はい、お姉様」

「このオークのことですけど、これはまだ倒してはいませんわ」

「……え?」

「今はまだ、穴にはめて動きを止めただけ。そしてこれなら、倒すのはあなたのほうがいいのでは?」


 そう、この身動きの取れなくなったオークは、勇者にとっては非常に都合がいいレベル上げ用の獲物である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る