Hint.2 郵便はつねに郵便 / Mail is not Laim
運動の原理。
脳から発信された指令は脊髄へ到達し、運動ニューロンがシナプスを介して筋肉へ信号を送る。
信号を受けた筋肉は収縮し、運動を実行する。
わずか一瞬の間に、人体はこれだけの工程を踏んで運動を行っているのである。
すなわち、運動とは郵便である。
運動ニューロンが郵便配達員として、信号という郵便物を、シナプスという郵便受けへと送り届けている。
すると、ここにも「スポーツのヒント」が隠されていると気づくことができる。
「郵」という字は、つねに熟語の左側に位置している。
「郵便」「郵送」「郵書」「郵船」など、枚挙にいとまがない。
「x = 任意の漢字」とした場合、「x 郵」という言葉は存在していないのである。
たとえば「東京中央郵便局」という熟語の場合、その構造は「x x x x 郵 x x」であり、「x 郵」が含まれているではないか、という指摘もあろう。
しかしこの熟語は当然「東京 / 中央 / 郵便局」という構成で成立しており、「x 郵」ではなく「郵 x x」であることは自明である。
これをサッカーに置き換えると、「郵」はつねに自身のポジションをGK(ゴールキーパー)に位置づけていると言えよう。
サッカーにおいて、チームメンバーのポジションは基本的に「GK-DF-MF-FW」という連なりをなしている。
「郵」をサッカーにおけるGKであるとする場合、「郵 - x - x - x」と表記できる。
この基本的な形を崩さない姿勢こそが「郵」に学ぶべき点であり、今回の「スポーツのヒント」である。
もし、GKが試合状況にかかわらず、自由に行動してしまった場合どうなってしまうだろうか。
「郵便局長」で考えてみる。
GKがDFよりも前に出てしまった場合、「郵便局長」は「便郵局長」となる。
これは一体何なのか。便を運ぶ局長なのだろうか。
「便郵局」という、小便や大便といった糞尿を集める組織が、無差別に様々な家庭へ便を届けさせ、全国の郵便受けを糞まみれにしているのだろうか。
さらに、GKがMFよりも前へと出て行った場合、どうなるか。
「郵便局長」はさらに変化し、「便局郵長」となる。
「便局」は絶対に「便所」の元締めだろう。
全国各地に散らばる便所から、流した糞尿をさらに横流しし、それが流れる透明なパイプを、小太りで趣味の悪い紫のスーツに身を包んだ「郵長」が、高いところからガラス越しに見下ろし、伸びたひげを指で触っている絵が、容易に思い浮かぶ。
こうして集められた便は糞と尿に分別され、「便局郵長」の一声で、全国の郵便受けへとぶちまけられるのである。
そしてGKが自らの職務を完全に放棄し、FWよりも前方へ繰り出した場合。
「郵便局長」は今や「便局長郵」になってしまった。
字面だけ見ればほぼ「便局長邸」である。
「郵」は自らの役割をまったく忘れた結果、その姿を「邸」に変えてしまったのだ。
全国の便所を支配する「便局」のボス「便局長」が建てた、真っ白な「便局長邸」がそこにそびえ立っている。
邸内の敷地には糞尿を肥料にした草が生い茂り、扉を開けるとトイレスリッパが整然と並べられている。
リビングには全体的に茶色い料理が並んでおり、その皿は和式便所を模している。
さらに目盛りの書かれた紙コップに注がれた緑茶が客人に振る舞われるのだ。
掛け軸には「もう一歩前へ」という座右の銘が掛かれており、家具の位置は床に貼られたハエのシールで決定されている。
しかしどこか居心地は良く、壁に貼られた世界地図とか、置かれてるジョジョ全巻なんかを読んでいると、時間はあっという間に過ぎてしまうのである。
また、この「便局長邸」は男女別に用意されており、便局長の妻と娘は、女性専用の邸宅で毎晩「音姫」として招いた、AdoやToshiといった歌手たちの美麗な歌声を楽しんでいるらしい。
このように、「郵」が自らの立ち位置を忘れ前へ出てしまうと、あなたの家は糞まみれになるし、AdoやToshiのスケジュールは糞みたいに埋まるし、その隙にAdoやToshiの家も、何なら便局長邸すらも糞まみれになるのである。
しかし「郵」は岸部露伴のように、決してそこを動かない。
自らが国民を糞尿から守る最後の砦であることを自覚しているからだ。
その姿勢はゴールを守るGKと全く同じであり、自身に与えられた仕事を、自身のエゴを排して、自身の全力でこなすという、大きな「スポーツのヒント」をも示している。
それでは、今回の「スポーツのヒント」を以下に示す。
ある期待を込めて与えられた仕事に対して、どのように向き合うか。
誰かを押しのけて自分の気ままに動くのではなく、自身の役割を自覚し、求められていることを理解する。
さながら「郵」が、全国の家庭を糞まみれにしないという自身の役割を自覚し、愚かにも「邸」と成り果てぬよう、つねに熟語の左側に立ち続けているように。
「郵便」はつねに意識的に「郵便」であり続けている。
だからあなたも、つねに意識的に「あなた」で居続けなくてはならない。
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