アンチワンサイドゲーム

釣ール

第1話:ひとつの生活ふたつの力

 力をつけていくことの重要性。

 わけあって偽名ぎめい三田村朶紙みたむらえにしという名前を使って人間として生きている。




 元々は人間で今も人間かどうかはもう俺にも分からない。




 今は数がいる。

 俺たちだけじゃとても足りない。





「どいつもこいつもやたら演技えんぎがうまい」





 今日も収穫しゅうかくはなしか。

 伏常世ありぜい嗅覚きゅうかくでも探せないとは。




「さほど幸せじゃないほうがやりやすいのかもしれない。 なりたくもない前例ぜんれいがいつの時代にも存在している限り」




「冗談・・・じゃないか。 俺たちはつねに死と隣合となりあわせのはずが環境によって受け取る感覚がちがう」





 だから分かりあえない。

 それなのに数と能力をきそいあい2024年でも椅子取いすとりゲームを続けている。





 男は女を大切にあつかうふりをして男をつぶし、女は興味のない男にたいして多くの壁を乗り越えるかあきらめるかをつきつけられる。





 ありもしない幸せに古すぎて使えない哲学てつがく仏教ぶっきょうを趣味につかうだけで歴史や背景を調べもせずSNSを使うだけ使って現実逃避。

 そして見てるだけの人間を数のために利用する。





退屈たいくつだな。 普段ふだんは人間として戦っているのに物足りない」






 伏常世ありぜいはリストアップしたデータを腕の傷から電子でんしモニターのようにうつしだす。





「俺や紫耀眷しょうけんだけじゃたよりないか?」





「まさか。 オマエたちのひまつぶしに最適さいてきな人間を集めてよびよせる。 そうしないと達成たっせいできないのが多様性たようせいってやつだ」




三田村みたむらも気にしてるのか? 社会に関心があるのはいいがスローガンだのイデオロギーだの個人のポルノ趣味を人間はさも自分が生み出したかのように語って金をかせぎ集団をつくるだけだ! 俺たちまでそんなことをするのか?」





 少し誤解ごかいがあるから説明するか。






「俺たちは本来ほんらい使う必要がない人間とは別の力がある。 だから特別ってわけじゃない。 わけじゃないがこのまま大人しく暮らすのも甲斐かいがない」






 人間達が存在しない能力主義のうりょくしゅぎ天才てんさい英雄えいゆうを求めるだけのえた肉塊にくかいならつぶすのは今だ。






 伏常世ありぜいはそれ以上は言葉をつぐんだ。

 あとはわざわざ三田村がいうことはない。






「力をほしがる人間を探しに行く。 留守はたのんだ」





 これも工夫するためだ。






*





 逃げ場なんてない。

 ストレス発散のために精神科医や教員OBOGがわたし達を『劣等生れっとうせい』と金と生活維持に目がくらんだ人間たちが誰にも言えない死にたい気持ちを利用し、今不明なアドバイスで傷つける。





 性欲があるか無欲でいじめしかすることをしない周りの中学生ともうすごしたくない!!





 どれだけ強くてもお前が悪い、お前が悪いとせめてくる。



 味方してきた人間があらわれると社会が悪い、世界が悪いと話を聞いてくれない。






 もういい。

 もういいだろ!!





 自殺を決意した女子中学生が飛び下りる瞬間を黒い空間がつつむ。






「このままオマエが死んでも周りは何事もなく過ごすだけだ。 もしオマエが電車に飛び込んで死んだとしても周りはオマエの死体や背景より自分の帰りが遅くなることにいらだつだけ」






 分かってる。

 でも死ねばチャラなのは事実!






「ならそのまま生きろだなんて無責任なことをいうつもり?」






 闇の中で動く影は女子中学生に距離をとりながら語り続ける。





「そうは言わない。ただし復讐ふくしゅうしたくはないか?」





 典型パターンか。

 それができ、いや、もしできるのなら!





「数が多すぎる」






「なら人間としてではなく別の選択肢を使えばいい」





 彼は闇の中から手を出し、女子中学生に渡す。






「これだけ?」






「もう歴史は変わっている。 オマエはこの世界では死んだことになり、人間としてではなく恐怖の象徴しょうちょう定義ていぎされた者となった」






 女子中学生はさりげなく死んだことにされたこの歴史と世界をもう許すことはなかった。






不景気ふけいきでも好景気こうけいきでも人間は弱き者から搾取さくしゅするために血縁けつえんと金、才能や言葉を使う。 馬鹿だからな。 どいつもこいつも」





 渡されたモノは女子中学生をおおいもうひとつの身体をあたえた。





「オマエの恨みは俺が晴らす」





 かたは自分でつけたいと言いたかったが闇の中の影は本気で女子中学生が憎む全ての人間を始末しまつするつもりだった。





「そんな。だったら私がこの力を使う意味が!」





「意味ならある。 オマエの歴史を対価たいかとして受け取った俺は理由ができ、オマエを死に追いやった人間達を好きにできる」






 女子中学生は背筋せすじがこおった。

 この人は人間。

 そのはずなのに…。





「俺はあばれる理由さえあればかまわない。オマエは手を汚す必要はない」





「だったらあなたまで悪事に手を染める必要もない!」






 闇の中から彼は声にださず笑っていた気がした。






「受け取った対価を好きに使うだけだ」





 女子中学生はあぶない相手に目をつけられたと思った。

 しかしそうするしかない。

 どのみち未来はないのだから。






 命を救ってもらったのかは分からないがもう元にはもどれないことだけを女子中学生は覚悟した。






――ニュースにて






昨日未明さくじつ、〇‪✕‬中学校に通う生徒、教員が全て亡くなっていることを用務員の男性と非常勤講師ひじょうきんこうしの女性から連絡がありました…』






 女子中学生はもう人間じゃないのかもしれない。

 それでも謎の力を渡してくれたあの人は有言実行ゆうげんじっこうしてくれた。






 改めてこの世では綺麗事きれいごとが通じないことを経験する。







――昨日のとある回想






「こ、これだけの人数を! がっ、はっはなせ……」






 片手で持ち上げられた中学生はおそらく成人過ぎて間もない歳上だが若い男性に笑っていない目でにらまれ、ひすい色の水晶でできた右腕が獲物をねらうように中学生をゆさぶる。







 周りには紫色の炎に沢山の死体。

 たったひとりで?






「大切な仲間のためだ。 悪く思うな。 共犯者きょうはんしゃ同士どうしさ」







 もう中学生に感覚はなかった。

 おそらく腹をつらぬかれている。






 いったい、どうしてこんなことに。







 中学生は何も思い出すことなく殺されるだけだった。








* * *





「仕事は終わったか?」





 伏常世ありぜいは仕事帰りの三田村へ飯を渡して声をかける。





「新しい仲間ができた。 そのために何人が相手だろうと熱くなるだけだ」





 そうじゃない。

 伏常世ありぜいは人間の血を黒く燃やしたあとがみえる右腕に目をやる。





「左利きでも右腕は大切にしろ」





 三田村は少しだけ笑って伏常世ありぜいの作った飯を食べる。






「今日もうまい。 それと今後は身体を大切にするよ。 ありがとう伏常世ありぜい







 リスクはいつも人よりつきまとう。

 そして新しい仲間か。






 それでも伏常世ありぜいは三田村を心配する。





 腕の傷からデータを映像にして新たな仲間を探し続けるために。





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