【10:00~完結まで全32話順次公開中!】インペリアル・フロンティア ~絶対支配のビーストテイマー~
手嶋柊。/nanigashira
第1話 第二世代のビギナー
1a.1
『インペリアル・フロンティア』――このゲームには、始末屋と呼ばれる
そんな噂を立ち寄った酒場で聞いたばかりだった。
なんでもプレイヤーの一人が引き起こしたネクロマンサー騒動の際、首謀者を討伐し、プレイヤーギルド聯合の意向を受けて、以降も特定のPK《プレイヤーキラー》を介錯し続けているゆえについた蔑称らしい。
そういう経緯、聯合という組織でもやはり疎まれるのは避けられないようで、彼の除名処分や追放、そういうトカゲの尻尾切りに見舞われるんじゃないかともまことしやかにささやかれている。
「それって、悪い人なんです?」
とその場にいた人らへキノは問うた。彼らはせせら笑った。
「あぁ極悪人だよ、間違いない。
上位調教って知ってるか?」
「交渉による高位契約でしたっけ、それがどうしたんです」
彼の返答がよほどおかしかったらしい、品のない笑いはより一層強まる。
やがて答えてはくれた。
「きみは聯合の出した攻略指南本を文字通りにしか受け取らないんだな。
いいか、上位調教を最初に発見したプレイヤーだ、その時点でとんでもない」
「?」
「上位調教で契約できる対象は、上手くやればプレイヤー自身も含まれる」
「え」
「あいつは最初に盗賊の女を侍らせて、自分がご主人様になっちまった、とんでもないド変態だよ」
「……、プレイヤーが、プレイヤーを?
「ほかの何があるってんだよ、今更。
とかく、関わり合いにならんほうがいいぞ。
もっとも、関わる以前の問題かもしれんが」
男たちはキノたちに、初心者の探索に都合のいい洞窟が近くにあるとタダで教えてくれた。
「楽しい話をさせてくれた礼だ、この洞窟だ、今の君たちでも十分対応できるだろう」
「あ、ありがとうございます!」
情報は仕入られたものの、変な話を長々と聞かされてしまった。
このときのキノと仲間たち――オウリとカリンの計三人は、すぐそこへ向かうことにしたが、この時点で誰も疑わなかったことを、キノはのちに後悔してやまない。
タダほど怖いものはなかったのだ。
*
パーティは三人、キノとオウリふたりの少年とカリンという少女で構成されていた。
大丈夫だと言って洞窟内を先行したオウリは敵の個体へ突っ込み、ふたりの目線の先で斃れている。
「オウリ起きろ!
そんなところで倒れてる場合か!」
(分断された――辿り着けない!?)
キノの前にエネミーが現れ、オウリの元へ辿り着けない。
カリンは後衛でまだゲームに慣れないならば、彼女から離れるのは見捨てるに等しいことだ。
「行ってキノ!」「カリン、けど」「今行かないと、きっと後悔する!」
「すまない……!」
オウリの契約していたレプトリンは全高80cm前後の二足歩行をする蜥蜴、しかし主人を捨てて彼へ敵意とともに襲いかかろうとしていた。
「契約が切れた途端、敵に戻るってのかこいつふざけるなよッ!?」
キノの右手甲に『契約紋』が輝く。
プレイヤーがテイマーとして、その他生物を侍らせるゲームシステムの基幹だ。
喚ばれたムササビ型モンスター「ヴォラシュ」は洞窟の壁面をつたってレプトリンの顔面へ飛びついたが、直後あっさり弾かれる。
レプリトンの咥えていたナイフが落ちるも、前進したキノが拾い上げた。
“コスト超過のため、所持できません”
「ッ」
キノはふたたび地に落ちるナイフの柄を蹴り上げる。
“脚ベクトル補正”
フットボールの経験則が活きたか、ナイフは狙い通りにレプトリンの目を抉り――だが逆上させるだけだ、やつは止まらない。
「っの!!!」
彼はコストいっぱい分の両手剣で突っ込む。
ほとんど体当たりで首を削るも、自分が下になって倒れたなら、のしかかられて身動きが取れなくなってしまう。詰んだ。
置いてきたカリンの方を向く。彼女は洞窟内の蟻型エリアエネミーに囲まれ、蹲っている。
「なんなんだよコイツら!!?」
俺たちは入念に準備して、この場へ臨んだはずだった。
この世界へ先に来た、第一世代と称するプレイヤーたちはビギナーにおすすめの穴場と言うから挑んでみれば――装備もレベルもまるで歯が立たない。
こうなったなら、いやそうでなくとも、力を出し惜しんでいる場合ではなかった。
「
インペリアル・フロンティアのプレイヤーはみな、モンスターを使役して戦うテイマーである。
なればプレイヤー個々のステータスは生物を使役するものに偏重し、成長しても単独でできることには限られていた。パートナーであるモンスターを、身体強化やパラメーターの増強に充てるシステムを『纒』と呼ぶ。
ヴォラシュがキノの軽装プレートメイル上に光のエフェクトとなって覆うと、その定着を待たず彼は頭突きで敵を除ける。
(パラメーターは纒に用いたユニット、モンスターと一時的に融合して相乗される。
これでダメならもう打つ手はない!)
ヴォラシュのパラメーターは、後方支援向きな回復スキルを主として、育成もさほど進んではいない。
ヴォラシュぶんの火力が載ったところで、前衛斥候タイプなオウリのレプトリンとは拮抗もできないだろう。
「だからって、こんなところで二人を、俺は――!」
こんなところで仲間を死なせてなるものか、ならばどうする?
現場へ駆けつけた黒衣の青年は、洞窟の壁面に足を掛けて状況を俯瞰していた。
「一人は脱落、もうふたりは――今エネミーを片付けないと、死ぬな」
『アスカさん、間に合ったんです?』「それをこれから、確かめる」
プレイヤー間にはアドレスを介した通話機能があるが、彼女とアスカのそれは通常の通話とは異なって、より直接的な指示と感覚識の共有をアスカ側の任意で行える。
「キノとか言ったか若いのはいいスジしてるよ、ここで潰されるのは惜しい。
云うて他人だが」
彼らを生かしたところで、いつかここで死んだほうがマシだったと想うかもしらない。
ただ、試す価値はありそうだと想った。
アスカは自身の眷属、その
【領域制圧】
洞窟内に無機質な叫声が響き、その場にいた全てのモンスターが動きを止め、重圧に潰される。
スキルはMPを消費するが、かたやアビリティの発動に代償はない。
起き上がったキノ以外のすべてが止まっていて――、
「なにが」
エネミーが軒並み動けないでいる景色に、キノは困惑する。
カリンを押し倒していたエネミーを足蹴にして、黒衣がキノの元へやがてやってきた。
「ムササビ型、となるとヴォラシュか。
そいつの初期スキルは自身のHPを代償とした回復技だったな?
持っているじゃないか、きみ」
「あんたは!?」
「三条アスカ、そのうち嫌でも名を聞くだろうよ。
ところで少年、仲間を助けるなら、今お前にできる唯一の方法だ。
纒を用いて彼のHPを回復させろ、時間がない」
「!」
キノは消滅しかかるオウリの元へ駆け寄り、彼を抱き上げる。
「オウリしっかりしろ、今助けてやる!」
ヴォラシュのスキル、“吸血転換”は術者であるヴォラシュと纒で繋がるキノのHPを少量から代償として、対象へ分け与える。術者から吸われたHPの1/3が対象へ反映されるも、あくまでその場凌ぎな回復術でしかない。
「ダメだ、ゲージが回復しない――いやだ」
アスカはスキルを行使し続ける彼の肩へ手を置く。
「【小回復】、スキルを効果の現れるまで繰り返せ、諦めるな」「は、はい!」
【吸血転換】【吸血転換】【吸血転換】――繰り返しても、指先はオウリの安全へなんら確証を覚えない。
このときキノは、また妙だと気づくべきだったのだ。アスカのスキル“小回復”は、サイドジョブとして選択できる“回復士”の系統へ連なる、回復の技術において、アスカは間違いなく駆け出し同然なキノらより卓越しているはずだった。それがオウリ自身へ直接のスキルを使用しなかったということはこの時点、アスカはオウリの生存に見切りをつけていたに違いない。
「どう、して……」
オウリの肉体はキノの足掻き虚しく消失し、代わりにステータスパネルは、新たな項目の開放を告げた。
“無生物へ対するHP《ハートポイント》代償系スキルの重複行使計13回を達成”
“
“契約紋/叛のスロットツリーが解放されました”
キノの絶望をよそに、システムは彼に酷薄な祝福を添える。
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