2年目 前

勇者パーティーのお仕事


「よく来てくれました勇者様方」


俺が入った時の勇者パーティーはまだ結成して間もない頃だった。

この世界では天職を手に入れても最初から最強では無く、訓練や魔物退治で強くなる必要があるためアルス勇者パーティーはまだ魔王軍と戦ってはいなかった。


「……」 カタカタ

「ん……」 ぎゅっ

「!……ありがとうリースちゃん」


今回はこの砦で初の魔王軍との戦闘、緊張しているのか砦に向かう道中はみんな口数が少なかったし、俺と手を繋いでるメリッサは少し震えていた。


「現状、我が砦を含むこの戦線には勇者パーティーが貴殿を含めて3つ派遣されている。

貴殿のパーティーは訓練期間を終え、魔王軍との戦闘は初めてと聞いた。無理はしなくていい」

「……勇者として、全力を尽くします」


そう、勇者の天職を持つ者は意外と多くいる。

最初に聞いた時はとても驚いたけど、勇者に毎月届く魔王軍との戦闘記録では毎月のように1つは勇者パーティーが壊滅しており、勇者の天職を持つ者でも勝てない相手がいる事に少し怖くなった。


そして女神様の言っていたことを思い出し、『人に厳しい』と言っていた意味もわかった。


「では勇者アルス殿は私と共に前線を確認に行きましょう、今は睨み合い中ですので基本的な動き方の説明を行います。

聖女様と剣聖様は砦内で治療と警備に当たっていただきたい」

「「「わかりました」」」


いつものみんなとは思えないほど緊張してる、俺もチートを使ってサポートを頑張らないと。


「そして、少し言いずらいのですがそこに居る少女は街に帰した方がよろしいかと。

ここは遊びの場ではないので」

「……?」


は?


「リースはパーティーメンバーの1人なので、メリッサ達と行動を共にしてもらう予定です」

「ふむ、では天職は?」

「……」


天職を持たない人が居ない世界で、俺が天職を持っていない事を言える訳がない。

みんなに天職が無いと伝えたときも、めちゃめちゃ驚いてたな。


まぁ、みんなは普通に受け入れてくれたけどね。


そのあと天職が無いのがヤバイことだって知らなかったから普通に言っちゃったけど、他の人達がどんな反応をするかわからないから外では絶対に言わないと約束させられた。


「戦う術を持たない者は戦場、いやこの場にも必要無いのです」

「いや、リースは──」

「言葉は必要ありません、実際に見せていただきたい」


なんか、ムカつく。


「【グラビティ】」

「ん?ふむ、なるほど魔法関連の天職か」

「……?」

「だがこの程度ではな、私の兵にはより優れた魔法使いがいる」


便利で多用していた対象の重力を倍増される魔法【グラビティ】勇者であるアルスでも構えずに受けたら膝をつく魔法、それを奇襲同然で喰らわせたのに平然と立ってる。


さてどうしよう、このままだと俺だけ街に帰らされかねない。


「この程度を魔法使いを連れているとは、これは勇者の中でも弱いか……」ボソッ


今の俺の身体は普通の少女、魔法の強化無しでは年相応の力しか無く、戦場では足手纏い。

街で過ごす時以外は魔法で全身を強化しており、今の極々小さな呟きもはっきり聞こえた。


「【グラビティ】」

「何度やっても同じことだ」

「【魔力腕】」


ガツン!


「「「リース?!/ちゃん?!」」」


俺が手を振るとアルスを馬鹿にした騎士が壁に激突する、【魔力腕】は俺が動かした腕と同じように動く魔力でできた大きな腕を生み出す魔法。


「……」


ドン!


みんなに驚かれているけど、壁に叩きつけられた騎士へ再び手を振る。


何度も、何度も……


みんなと出会ってまだ2年ちょい、それでも俺にとっては大切な仲間。

人に対して殺傷力のある魔法を使うのは俺は勿論、このエルフの体も苦手で少し震えるけど、今は震えもない。


バキッ!


「……」


ただ目の前の騎士をボコボコにしたいという思いしかない。


「リース!」


手のひらで眼を覆われた。


「リースの実力は知ってる、だから落ち着いてくれ。」


暖かい手に触れられ、すーっと落ち着きを取り戻していく。


俺自身、異世界に来る前はラノベを読み漁っていたし、自らの体に精神を引っ張られる話も読んだことがある。

子供っぽい事で面白く感じたり、涙脆くなったり、怒りっぽくなったりと幼いエルフの身体に精神が引っ張られてる?とは思っていたが、実際にここまで感情を制御できなかったのは初めてだ。


「ん……」

「いい子だ」


冷静になって見てみると部屋には惨状が広がっていた。

机や椅子などの家具はもちろん、壁まで壊れてた、ちなみに俺の猛攻をくらった騎士はボロボロで倒れてた。


「おら立て!あれだけ調子乗ってたんだからまだ動けるだろ!」

「ぐっ……」

「待てヘレン、俺に任せろ」


みんなに追撃されてる記事を見ても俺に罪悪感は皆無、みんなを馬鹿にしたアイツがいけないんだ。


「なっ!」

「わかってくれましたか?」

「……わかった」


アルスが倒れてる馬鹿に何か言って、馬鹿が焦ってる。顔めっちゃ青くて面白いな。


「よーし、心優しい指揮官様は俺達に自由に動いていいって!目的のためにも頑張るぞ!」

「「おー!」」「……?」


目的なんてあったか?

世界守ろう的なことを前に言ってたからそれかなぁ?



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