身長180cmクーデレ溺愛青年×身長148cm天真爛漫少女のイチャイチャ日和

尾道カケル=ジャン

寝ぼけ眼なユイにドライヤーをかける凪佐

 バタン! 寝室の扉がやけに強く開かれた。


「ふぁぁ……」


 ふわり。甘ったるい石けんの香りを漂わせながら入ってきたのは、同居人であり恋人である少女ユイ。

 誰がどう見ても眠そうにしているソイツは、年の割には幼気な顔を一層子どもっぽくさせている。


「はれぇ、なぎささん? まだ起きてたの?」

「いいから寝ろ」


 思わず強めに言い返したくらい、ろれつが回っていない。あぁそうか。眠気で頭が働かないせいで、力加減が上手くいかなかったのだろう。それで扉を強めに開いてしまったと。

 朝から夕方にかけて精力的に活動するコイツにはよくある話だ。だが、今日は特にひどい。


「おやすみぃ」

「あぁ……いや待て」


 ベッドに倒れ込もうとしたユイを止めようと声をかけ、っておい!


「待てと言っただろ」


 完全に横になる前にそのちっぽけな体を支える……相変わらず軽い。俺の背丈は180センチで、筋肉質なのを加味してもだ。

 なにせ、コイツの身長は148センチ。148センチといえば、だいたい11歳女子の平均身長だ。かつて、その見た目で15歳ですと言われた日は心底驚いたものだ。


「うみゅう、おやすみぃ……」

「まだ寝るな、髪を乾かしていないだろう」


 まったく。いつもいつも「男子でも髪の手入れはしなさい」などとうるさいお前はどこに行ったんだ。

 俺におしゃれは理解しづらいが、長い髪を濡らしたままでは風邪を引くのは普通に分かる。看病するのは面倒でしかない、コイツには健康でいてもらわねば。


「ほら、おい起きろ」

「今日はつかれたもぉん……」

「いいからまだ起きていろ」

「……はぁい」


 不満げながらもしっかり返事をした、いい子だ。

 さて、ドライヤーはいつもどこにしまっていたか……あぁ、見つけた。ベッド脇の物入れの中から、俺の趣味ではないピンク色のドライヤーを取り出す。ユイがいつも使っているヤツだ。


「乾かすぞ」

「ふぁい」

「……おい」


 おい、なぜ、俺の膝の上に座るんだ。あまりにも当然でございな動きのせいで止められなかった。

 まぁいい、これで大人しくなるのなら……むぅ。やはりというか、コイツは背丈相応に軽い。

 それでもキチンとした重みがあり、何よりも春先の陽光のようなポカポカとした体温が、コイツが生きているのだと知らしめてくる。


「んへへ……凪佐さん、おっきいねぇ……」


 スリ、スリ。ユイのヤツが後頭部を俺の胸元にこすりつけてくる。

 そのたびにさわりと、甘ったるい石けんの、そしてその奥にうかがえるユイ自身の匂いが、脳の底をくすぐってくる。

 ムズムズと、下腹部の中央に血が集まりだすのを無理やり抑える。今、コイツはそういう気分じゃあないだろうしな……。


「いつも女心を理解しろとかのたまうくせに、健全な男子の欲求は知ろうとしないらしい」

「んぇ、なに?」

「いいや。つけるぞ、目を閉じていろ」

「んぅ」


 ユイがうなずいたのを見てから、ドライヤーのスイッチを入れる。


「熱くないか」

「だいじょうぶ」

「そうか」


 さて。クシを使った髪のすき方など俺は知らない。だから、おしゃれなコイツに申し訳ないが手ぐしを使わせてもらおう。

 こう、スススゥと……


「っ、ちょっとつよい……」

「む、すまない」


 どうやら力が入りすぎたらしい。もう少し丁寧に、ていねいに……。


「うみゅぅ、いいかんじだよ……」

「分かった」


 褒められたときの力加減でスゥ、スゥと手ぐしを入れていく。乾かしムラができないよう、上下左右前後、時には持つ手を変えて熱風を当てていく。

 ……これであっているのか、どうか。次にユイの髪を手入れする機会があるかは分からんが、それでも勉強しておくべきか……む。


「すぅ、すぅ……」

「寝てしまったか」


 俺の胸元に頭を預けながら寝息を立て始めたユイ。俺みたいな無骨者の手入れでも、心地よくなってくれたのか。

 起きてしまわないか不安だが、最後に冷たい風を当てて……よし、起きないな。


「こんなものか」


 指を入れ、すぅと下に走らせる。サラサラに、なったはずだが……ユイの手入れと比べたら、こう、違う。

 何が違うのだろうか。知識か、技術か……髪に対する思い入れか。


「んぅ……」

「おっと、すまん」


 身じろぎしたユイに軽く謝り、ドライヤーのスイッチを切ってサイドテーブルに置く。

 そして、その小さな体を横に……あぁ、そういえば。

 ユイの寝顔を思い出し、彼女の細っこい手首にはめてあるヘアゴムを失敬すると、ふわっとしたサイドテールを作ってやる。これでよし。


「横にするぞ」


 声をかけるが返事はない。よく寝ているな。

 起こさないよう、慎重に、ていねいに、小さく軽い体を抱き、ベッドに横たえさせる。


「俺も寝るか、っと」


 自分のベッドに向かおうとすれば、ユイが服の裾を掴んでいることに気づく。軽く触れて離そうとするが、意外と力が入っているな。


「ったく、しかたないヤツだ」


 ユイの体を少し奥へ移動させ、空いたスペースに寝転がる。

 途端、抱きついてきた。胸元に顔を埋めて、男臭いだろうに安らかな寝息を立てだすユイ。


「おやすみ、ユイ」


 サラサラになった前髪をよけ、小さな額にキスをしてから、俺は目を閉じた。

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