エピローグ
「ちなみに一個だけいいか。勇者よ」
「敬語使え。あと勇者『様』だろ」
「くっ……」
「今は俺の尻に敷かれる立場だという自覚を持て。文字通り、な」
勇者は玉座に寄りかかり足を組む。
魔王は屈辱を感じながらもその言葉をのんだ。
「一個だけいいですか勇者様」
「なんだ魔王」
魔王は真摯な瞳で勇者を見据える。
そしてこう告げた。
「一回だけケツを触らせてください」
「!」
敗北を喫した魔王にもはや失うプライドなどない。今こそ、己の心に正直になるときだ。
「…………」
勇者はじっと魔王の顔を見つめた。
魔王の瞳はひたむきで、そこからは強い意志が感じ取れた。
「ふむ……」
勇者は悩むようなそぶりを見せたが、やがてふっ、と表情を和らげる。
それは先程までの嘲るような笑みとは違い、聖母のような慈愛に満ちた微笑みだった。
「いいだろう」
勇者は玉座から立ち上がり、くるりと背を向けて尻を突き出した。
「さあ、触るがいい」
「失礼します」
魔王はおそるおそる手を伸ばす。
指先がその尻に触れた瞬間、目の前に青空が広がっていくような錯覚を起こした。
「……!」
果てしなく広がる草原の中、魔王は人間だった頃の姿で佇んでいた。
陽光が身体を包み込む。全身を澄んだ風が吹き抜けていく。
さわさわと草の揺れる音を聴きながら魔王はゆっくりと目を閉じた。
(温かい……)
これまで味わった辛さや苦しさ、怒りや悲しみ全てが消え去るようだ。
魔王はその温もりに身を委ね、少年のようなあどけない笑顔を浮かべながら呟いた。
「やわらけえ……」
それゆけ!プリケツチート 庭先 ひよこ @tuduriri
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます