眩しい光が収まると、ジンだけが消えてロイと子どもたちは残された。

 窓の外にいる異形も何体か消えているようで、二体だけ残ってこっちを見ていた。


 一体は最初に遭遇した羽の生えた異形。もう一体は、赤っぽい色の体をした異形で、見た目はこの前テレビで見た外国にあるという仏像に似ていた。でも上半身しかなく、お腹から下は炎を逆さまにしたような形になっている。

 遠くで建物が崩れるような音がした。きっとジンだろう。

「なぁ、どうするんだよ」

 背中にいるアンディが半分怒って半泣いたようなの声を上げた。コリンとレックスも恐怖と不安に満ちた顔をしてロイを見ている。

 どうしたらいいかなんてこっちの方が聞きたかった。こんな時どういう行動を取るべきなのか分からない。

 でも子どもたちを守るのが仕事。だからせめて助ける側の自分が子どもたちの前で泣いたりしてはいけないと、それだけは分かっていた。

 こんな時、ジンならどうするんだろう。

「なぁ、聞いてるのかよ」

 アンディが肩を揺する。

「聞いてるよ。異形が何かしないなら、ぼくたちも動かない方がいいと思うんだ。だからじっとしてて。すぐにジンが来るから」


 異形は相変わらずこっちを見ていた。最初に見た時は不気味でしかたなかったけれど、見た目にもにおいにも慣れたのか、今はそれほど恐怖を感じない。

 異形には目や顔があるけれど、人形みたいにほとんど動かないから感情が読めない。

 でも羽の生えた異形の胸にある大きな目の瞳孔がぐわっと開いたかと思うと、異形は目を見開いた、ように見えた。

 まるで何かを見て驚いたような……?

 異形が向き合ってフォンフォンと声を出す。音の種類が違うので、異形同士で会話をしているのだろうか。

 だがその内容を知れるわけもなく、ロイたちはその様子を見ることしかできなかった。

「あのバケモノたち、攻撃してこないね」

 そう言ったのはレックスだ。

 それはロイも思っていた。触手の異形のように攻撃してきてもいいはずなのに、しないのはただ攻撃をしないだけなのか、それとも異能が攻撃タイプではないからなのか。

 もし後者なら逃げるチャンスではないだろうか。

 ロイはそっと後ろを見た。


 異形たちがいるのと反対側にも大きな窓がある。いや窓と言ってもガラスや枠が無いのでただの大きな穴だ。子どもたち三人を抱えても十分通れる。

 出よう。元々ジンが異形たちを引き付けている間に自分たちが町を出る作戦だった。ジンが戻って来てもそれに気付いてくれるはずだ。

 異形たちはこっちの存在など忘れたようにまだ話している。

 ロイは子どもたちに囁いた。

「後ろの窓から外に逃げるよ。みんなぼくにしっかり掴まってて」

 アンディが背中に掴まり、コリンとレックスを抱えると、ロイはじりじりと異形に気付かれないよう後退した。

 そして走り出した。

 跳んで窓から外に出る。

 空はすっかりオレンジ色になっていた。

 ロイは町の外に向かって走り出したが、

「来てる!」

 アンディの叫び声に後ろを見ると、赤い異形が宙に浮いてこっちに来ていた。そして目の前が光ると、目の前の景色が変わっていないようで、変わっていた。見回すとさっきまでいた建物の外に飛ばされたようだった。

 二体の異形がロイたちの前後を取り囲む。

 これでは逃げられないし、逃げたとしても赤い異形の異能ですぐに戻されてしまう。ジンはまだ戻ってこない。

 ロイが声を上げる前に、子どもたちが言葉にならない声を叫んだ。

 その声が耳の中で痛いくらいに響いたが、おかげで逆に冷静になれた。


 ロイだって怖い。

 だけど、これは仕事だ。


 ロイは前を見据えた。

「大丈夫だよ」

 ジンを真似て穏やかに声を掛けると、子どもたちは叫ぶのをやめてこっちを見た。

 覚悟を決めて子どもたちを下ろし、異形と対峙した。

 赤い異形から音が鳴ったかと思うと目の前が光って、次の瞬間、町が下に見えた。

 空に飛ばされたのだと理解した途端に体が落ちていく。

「うわあああああああああああああっ!」

 流石にこの高さから落ちたら死んでしまう。

 ジタバタするが空中ではどうにもならない。

 地面が近づき、ぶつかると目を閉じた瞬間、ふわりと誰かに抱きかかえられた。

 恐る恐る目を開けると、

「ジン!」

「大丈夫か?」

 ジンがニッと笑った。ジンの顔を見て安心したが、その口から血のにおいがした。

「ぼくは大丈夫だけど、ジン、怪我してるよね」

「これくらい平気だ」

 ジンは子どもたちのところに下り立ち、ロイを下ろすと異形と向かい合った。

「悪いが、さっきの異形たちは倒させてもらった。殺しちゃいない。アンタらの目的が何か知らないが、もう終わりにしないか」

 異形たちが互いを見合い、こちらを見る。

 驚いているのか、怒っているのか、悲しんでいるのか、やっぱり分からない。

 そしてまた目の前が光り、目を開けると、ロイたちはあのフェンスの所に立っていた。

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