3
「なんで警察に行かないの?」
カーラの家を離れながらロイが聞いてきた。ごもっともな意見で、誰もが真っ先に思いつくことだろうがこの街ではそれができたら苦労しない。
「言ってしまえば、ダスト・エリアやその周囲を担当する警察は役立たずなんだ。裏でギャングと繋がってるし、行方不明の捜査なんかまともにされないことを街の人たちはみんな知ってる。だから自分でやるしかないんだ」
「オレはそういう人たちを助けたい」とジンが付け加えると、ロイは納得した顔で頷いた。
「どうしてぼくも外に?」
「ロイは鼻が良いだろう。アンディ君のにおいを辿って捜すのを助けて欲しいんだ」
ロイは一切嫌な顔をせず、むしろ嬉しそうに頷いた。
「まかせて」
ロイにTシャツを渡すと、彼はそこに鼻を付けてすーっとにおいを嗅いだ。そしてTシャツから鼻を離してすっすっと空気中のにおいを嗅ぎ、その場にしゃがんで地面のにおいも嗅ぐと歩き出した。その後ろをジンはついて歩く。
まずロイは道を渡った横にある広場に行った。アンディたちが最後に目撃された場所だ。広場では若者たちがいくつかのグループに分かれて、スケートボードや音楽に合わせてダンスをしている。
ロイは広場の外を沿うように歩いて再び道を渡った。
そのままダスト・エリアを南へ歩いて行く。時折Tシャツのにおいと地面を嗅ぎながら歩くロイを不思議そうに、または訝し気に見ながらすれ違う人たちもいたが、ロイもジンも気にせず進んだ。
そうしてダスト・エリアを抜けて南に広がる荒野に出た。
ロイは地面に這いつくばってにおいを嗅ぐと立ち上がった。
「アンディともう二人はずーっとこの先に行ってるみたい」
ロイの言葉にジンは溜息を吐いた。
「どうしたの?」
「三人の行き先が分かった」
「本当?」
「あぁ。もちろん他の可能性もあるけどな。ロイは『立ち入り禁止区域』または『エリア・パスト』って聞いたことあるか?」
ロイは首を横に振った。
「聞いたことない」
ジンは荒野の先を指差した。
「この先ずーっと行ったところに、国から立ち入り禁止を指定されている区域があって、そこを立ち入り禁止区域、もしくはエリア・パストって呼ぶんだ。立ち入り禁止区域って呼ぶ方が多いかな」
「何で立ち入り禁止なの?」
「そこには『異形』が住む町があるんだ」
「そうなの⁉」
ロイがひと際大きな声を上げた。
「あぁ。と言っても、古代の遺跡みたいな古びた町で、異形もうじゃうじゃいるわけじゃない。居てもせいぜい数体だろうな。それに異形が町から出ることはないから、基本的には近づかなければ大丈夫だ。ここからその町までは車に乗っても丸一日かかるし、ここから何キロか先にはフェンスもある。仮にフェンスを越えたとしても子どもたちが町に着くことはない。荒野で迷子になってるくらいだろ」
町に入るよりはマシとは言え、迷子でも大変な事態だ。夜の荒野は気温がぐっと下がるし、他にも危険がたくさんある。早く捜すに越したことはない。
「行くぞ」
「うん」
二人は荒野に入った。
ロイが時々しゃがんでにおいを嗅ぎ、三人の進路を見失わないようにしながら進んだ。
そうして数時間後、二人は立ち入り禁止の看板が付けられたフェンスに辿り着いた。フェンスを軽々越えて着地したところのにおいをロイは嗅ぐが、何やら様子がおかしい。
「どうした?」
「ここでにおいが途切れてる」
「本当か」
ロイは頷く。
「他ににおいは?」
「無いよ」
「三人以外の人間は?」
もう一度地面のにおいを嗅ぎ、顔を上げる。
「それも無いよ」
それは変だ。他の人間のにおいもあるなら、ここで見回りの兵士に見つかって連れていかれたというのが有り得るが、全くないということはここで手品のように一瞬で消えたということになる。
「さて、どうしたものか」
ジンが両腕を組んだその時、目の前が真っ白に光った。
ロイの驚く声が聞こえ、ジンも目が潰れる程の眩しさに思わず目を閉じる。
光が収まって目を開けると、
「マジか」
そこは立ち入り禁止区域の中、ロイにも言った異形が住む町だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます