75 朝焼けの帰宅②

「……はっ。ねてない! ねてましぇん……!」

「無理しないでね。えっと次は、レーザーガン二丁一万六〇〇〇、ライトショットガン二丁二万四〇〇〇、パルスグレネード四個八〇〇〇、エネルシェルが二ダース八〇〇〇、エネルパックが三ダース九〇〇〇」

「うー……あんみつ、おいし……うへへ」

「アッシュちゃーん? 戻ってきて。もうちょっとだから。あとはマンティスの識別タグがふたつで四〇〇〇、ルシオルの識別タグ四つで四〇〇〇、ジャラード……え? ジャラード? 基地にでも突っ込んだのかしら。ジャラードの識別タグ一万。最後に金のメダル十万で、計二四万二五〇〇コインの換金よ。レブマの魔石はどうしよっか? ……もしもーし? んー。えいっ!」


 突然、胸にぞわりとしたものを感じ、アッシュは飛び起きた。胸を隠してあとずさると、ラーニャがくすくす笑っている。

 そのいたずらっぽい顔を見て、なにをされたか察した。


「な、なななにするのだ! 普通に起こすのだ!」

「それじゃまた寝ちゃいそうだなって思ったの。それよりアッシュちゃんって、かわいいお胸ね」

「なぬ!? まだ成長期なのだ! これから育つのだ!」


 たわわなラーニャから見れば、ないに等しい胸は、アッシュもひそかに気にしていることだった。

 高望みはしない。せめてアイリスのような美乳になりたい。そう思って少し寄せてみるが、夢は遠かった。

 なにはともあれ、アッシュの眠気は完全に吹き飛んだ。


「合計を半分こにすると、いくらなのだ?」

「一二万一二五〇コインよ」

「じゃあそれでいいのだ。レブマは育ててから換金する」

「わかったわ。お金はノアくんとまた半分でいいのよね? ……はい。じゃあコインコを画面にかざして」


 ピヨッ、ピヨッ。

 アッシュは寝ぼけ眼のノアから、電子マネーカードを受け取り、代わりに彼の報酬を入金しておいた。


「今回は持ち帰りの品も多いのね」


 そう言ってラーニャは、まだふくらんでいるリュックを見た。アッシュは片手にノアを、腰にハイジを下げて、開けてもらった扉を潜る。


「これは子どもたちへのお土産なのだ。だいぶ遅くなったから、早く帰らないと」

「孤児院の子たちだったかしら? きっと心配してるわね」

「どうだかなのだ。みんなたくましいから、早く生活費寄越せって怒られるかもなのだ」


 軽く肩をすくめてみせると、ラーニャはおかしそうに笑った。おやすみなさい、と見送られ、生まれ変わったばかりの朝日を浴びて歩く。

 そうして貧民街へつづく坂道に近づいた時だった。


「アッシュさん! ノアさん! ハイジさん!」


 通勤する人々の波から、パッと女性が駆けてくる。誘拐されたエミリーの母、シンディだった。

 アッシュが気づいて立ち止まった瞬間、彼女は倒れるように飛びついてくる。衝撃でノアとハイジは目を覚ました。


「ありがとうございます! ありがとうございます! 娘を助けて頂いて……!」

「シンディ、顔を上げるのだ。エミリーとは会えたのだ?」

「はい……! 今はまだ病院に。母といっしょにいます。怪我もなくて、カンカンのシチューがまた食べたいなんてっ、笑ってくれて……!」


 鼻をすすり、口を押さえるシンディに、ノアはそっとハンカチを差し出した。それを見て、母親の目にはいっそう涙があふれる。

 震える背中をなだめ、シンディが落ち着くのを待ってから、アッシュは尋ねた。


「でもどうしてここに? エミリーのそばにいなくていいのだ?」

「どうしてもアッシュさんたちに、お礼が言いたかったんです。報酬もお渡ししたくて」


 涙を拭ってから、シンディはコインコを取り出した。「どうぞ受け取ってください」と表示させた残金は、一万と少し。

 助けを求めてきた時の言葉通りなら、それが全財産だ。


「……代表して、隊長のノアが受け取るのだ」

「アッシュさんそれは……。いいですよ、シンディさん。僕たちは、拾ってきたクズを換金してきましたから」


 シンディたちのこれからを思い、ノアは遠慮する。しかし母親はキッと鋭く目つきを変え、カードを地面に置くとひざまずいた。

 ぎょっとして、ノアがやめさせようとするが、頑として動かない。


「端金なのはわかっています! それでもどうか受け取ってください! 大事な娘が危険な目に遭いながら、私はっ、おどおどすることしかできなかった……! 母親としてせめてできることは、これしかないんです! ですからどうかっ!」

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