第5話 罠
「電池が切れそうだね」
「う〜ん、やばいな」
光が途切れ途切れになっている。電気が残り僅かなのであろう。紗黄の指摘に俺は焦る。
「『
結月が口を開き、『神術』を発動する。自身が持つ『妖力』を使い、神の力を借りることで技を形作るものが『神術』である。魂の力、意志の力でもある『妖力』は『神術』として放つことで怪異を祓う事ができる数少ない対抗手段だ。他にも一人一人固有で持つ能力、『|天恵(てんけい)』を使った戦闘や、シンプルに妖力を纏わせて攻撃するなどが挙げられる。
また、どんな人間でも妖力を得ることは可能だ。しかしそれには二つのパターンがある。
一つ、両親のいずれかが妖力を持っている場合、いわゆる親が陰陽師のケース。
二つ、怪異によって命の危機に瀕している状況下で恐れ以外の感情、そして明確な目的を持つ場合。その二パターンである。
一つ目のパターンは生まれ持って妖力を持っている場合もあるが、後天的に発症するケースが基本である。自我が発達してくる十歳ごろに多くは発現するが、一部例外として二つ目のパターンに近いケース、主に怪異との接敵で目覚めるときもある。親が陰陽師でない人が、命の危機に瀕しているときに恐怖以外の感情と目的を持つことが必要な二つ目のパターンは極めて稀である。
結月は光源の確保のために『神術』を使用した。神術が発動されたことで結月の前に火の玉のようなものが出現した。結月が動くとそれについて来る。
「「え!?なにそれ」」
普通に生きている中では絶対に見ない、そしてあり得ない光景に拓真と紗黄はあっと驚く。
「う〜んとね、神術っていって、ファンタジーとかの魔法?みたいな感じのやつ」
自身が使った神術を好奇な目で見てくる二人に少し子供のようなところを感じる。結月はトンネルの中へと進みながら説明をした。
「触ったら熱い?」
「まぁ、炎くらいの熱さ?」
「なるほど...」
この『炎』が本物なのかを気になった俺は聞いてみたが、マジの炎らしい。触らないように気をつけようと心に決めた拓真であった。
さっきまで点滅していたライトは点滅が止まり、ついに電池は切れた様子。
トンネル内に照明は一切ないため、『炎』だけがトンネルを照らす。あまり遠くまでは照らせないが、ある程度は視界が確保できている。
(神術ってすげえ、俺も使いたい)
高校生になったが、まだ子供のようなファンタジーに心躍らせる年齢である。拓真が使ってみたいと思うことは無理もないことであった。それが可能かは置いといてなのだが。
「ねぇ拓真、結月。そこになにかいる」
少し歩いた後、紗黄が何かを見つけたようだ。指をさした方向を見るとたしかに黒い影のようなものが見える。よく見てみると、何かがトンネルの端でうずくまっているようだ。壁の方向を向いているので分からないが、あれはまさか...
結月は神術をすぐさま打ち込もうと右腕をそちら側に押し出した。俺は結月の行動をお構いなしに近づく。
「ねえ、君はどこから来たのかな?」
俺への返答はない。
「拓真先輩!そいつから離れろ」
結月は今までとは違い張り上げた声で俺に言ってくる。だが、目の前のこの男の子のことが俺は心配でしかたない。
「君一人?」
またも返答はない。もしかしてだが、この男の子は例の行方不明になった家族の男の子だろうか。俺は紗黄がなにか言ってきているのも無視して男の子との会話を続けることにした。
駅員に化けた怪異の経験がある拓真が彼女の忠告を無視して、明らかに不自然な様子の男の子に話しかけている。
その光景を別の言葉で言い表すとするならば、海に浮いている餌になんの疑問を持たない魚。それには釣り針が付いてるとも知らない哀れな魚である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます