第2話 立てた誓い
謎のトンネルや停電?消えた乗客などもあったがひとまず落ち着いた。電車には誰もいないので気にせず向かいのボックス席も使い、全員が一息つく。
ちょうど電車はトンネルを抜け、窓から外の風景が見えるようになった。外の景色を見てみるとまだ夕暮れ前だったはずの町並みは闇に覆われており、月明かりだけが外を照らしている。その風景も本来であればビルや建物が並んでいるはずだが、今見えるのは田んぼや一軒家、古びた町並みしか見えない。
(なんだ、これ)
現実ではあり得ない光景に俺は心のなかで言葉を失う。
電車に明かりは戻ったが、代わりと言わんばかりに今度は外が闇に覆われている。
「次は〜きさらぎ駅〜きさらぎ駅〜」
乗客に次の駅が知らされる。その駅の名前は誰もが一度は聞いたことがあるであろう『きさらぎ駅』
「え?『きさらぎ駅』ってあのきさらぎ駅?」
現実に存在するはずのない駅の名前が放送の中から聞こえてきたことに反応した俺。
きさらぎ駅、それはある日ネットの掲示板に一つの投稿がされたものである。「変な駅に降りたんだけど人が誰もいない」という女性の投稿から書き込みが始まり、きさらぎ駅という存在しないはずの場所でその女性は降りてしまう。やがてその女性は行方不明になったという話だ。
「なにかのミスじゃないの?」
紗黄が言う通り多分そうだろう、いや、そうと思いたい。あるわけのないトンネル、突然の停電、それに伴って消えた電車に乗っていた人。
(明らかに不自然か…これはまずいのでは?)
状況を整理すると改めて分かる。流石にまずい状況だ。一旦は落ち着いたが、こうも怪奇現象が続くと流石にテンパってくる。
「え、どうするどうする」
俺は慌て過ぎて語彙力が無くなる。紗黄が大丈夫だと、落ち着かせてくれたが内心向こうも焦っている。紗黄も拓真と同じようにきさらぎ駅について知っており、自分の状況を理解して怖がりながらも彼氏を落ち着かせている。
そんな二人に話しかける人がいた。
「ええっと、俺が今から言うことをしっかり聞いてほしいんですけど」
「どんなにありえなくても信じてください。いいですね?」
彼の言葉に俺も紗黄も首を縦に振る。もうこんな状況なんだ、信じる信じないではなく信じるしかない。紅は話を再開した。
「俺たちは今『きさらぎ駅』に向かってる途中です。今起きているこの不可解な現象はすべて奴らが生み出したもの。そして、」
今から重要なことを話すためにだろう、一度そこで間を開ける紅。そんな空気を読まずにある男が割り込んでくる。
「そいつらの脅威から人々を守るための存在が俺たちっつーわけ!だよな紅?」
「…解説ありがとう」
悲しそうに紅がそう言った後、紗黄は気になっていたことについて聞いてみる。
「なんでそいつらは人を狙うんですか?」
たしかにそうだ、物事には必ず理由がある。多分ではあるが、電車に乗る前に見たネットニュースの記事はこれと同じようなことが起こったのかもしれない。家族だけが異界に閉じ込められ、未だそこに囚われているのなら退場記録がない理由にも説明がつく。
俺の推察を余所に、今度は結月が話し始めた。
「彼らは、人の魂を求めている。彼ら自身は架空の存在の名前を借りて現世に降り立っている仮初の存在。極めて脆い存在だからこそ自分の恐怖を強めたり、直接魂を奪ったりして自身の存在を保とうとしてる。今回はその元凶が『きさらぎ駅』、そこにこの状況を作り出した核があるって感じですかね」
難しい言葉だが物凄く要約すると、俺たちの魂を化け物が狙っているらしい。やはりまずい状況だったようだ。
「なら、今すぐにでも列車から降りてここから逃げるか、その駅を通り過ごせばいいんじゃない?」
俺の案に紅は自分の見解を述べる。
「時速六十km以上出てる電車から飛び降りるなんてのはできないし、もしも次の駅で降りない場合、俺たち全員は二度と現世に戻ることはできない」
だとしても電車から降りたら本当にここから出られるのだろうか。次の駅はきさらぎ駅、現世ではないこ
とは明らかだ。いわゆるあの世とかそっちの世界に俺たちは迷い込んでしまったのだろう。
「ここはあの世なのか?」
「いや、当たらずとも遠からずってところだね」
俺の質問に今度は菜華が答えてくれる。
「ある程度上位のやつになると自身の空間に引きずり込めるんだよ。まあ、入って即死とかは必ずないし、明確なルールと出口が必ず存在してる」
つまり、この世界の元はきさらぎ駅ってことか。だからこそ、噂のもとであるその駅以外からは脱出の方法はないのか。
俺が話を理解している間、そのまま菜華は話を続ける。
「だから、二人は出口からの脱出を。もう列車は駅につくから、降りたら電車は直ぐに走り去るのでその方向に線路の上を歩いて進むとトンネルが見えるから、その内部のどこかにある非常口から現世に戻れます」
「四人はどうするの?」
俺たちだけが逃げるプランを話しているので、四人はどうするのか気になった俺は聞いてみる。
「そりゃもちろん化け物狩り。俺はもう家系で続いてるから任せてくだいね」
金色の髪をしたガタイの良い男、
「紗黄先輩たちがここから出ればこの世界は崩壊する。だからそれまで私達が全力で先輩方をサポートします」
菜華は二人にそう言い切った。まだ二人と出会ってから僅かな時間だが菜華は二人のことをなんとなく理解していた。だからこそ、彼らを本当に助けたいと思っている。様々な経験をしてきたが、怪異たちに狙われて助かったものはあまり多くない。いつも全力を尽くしているが、それでも助けられなかった日のことはいつまでも引きずっている。今回も必ず助ける、そう心のなかで誓って菜華は二人に言いきったのであった。
「うちらに任せてね、紗黄先輩!」
結月も菜華と同じく二人と出会ってから間もないが、彼らのことは絶対に守りたいと思っている。同年代ということもあり、一般市民である紗黄たちには今の状況が不気味で恐ろしいものであると理解している。幼なじみである菜華も涼介も『都市伝説』や『怪異』に慣れすぎていて感覚が麻痺しているが、こんなのに巻き込まれたら普通は正気を保てない。今までの任務でも基本は事件が起きた後のため自分たちだけでその怪異と戦うのだが、今回は違う。自分たちだけでなく二人にも意識を向けながらこの任務を完遂させる。結月はそう誓っていた。
「今日は師匠がいないから、俺たち四人が必ず守ります」
紅も他の三人と同じように言い切った。彼は元々一般人だった。父は神社の宮司で、母と二人で切り盛りしている。二人とも陰陽師だったが、母は肺が弱くなり、陰陽師を引退した。今は父だけが陰陽師として活動している。そんな二人のもとに生まれた紅はあることをきっかけに力が目覚め、やがて陰陽師となった。いつもは任務の補佐としているはずの師匠が今日はいないが、自分たちの手で二人を助けると誓った。
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