第20話 球技大会 1

あれから数ヶ月の月日が流れた。


春の暖かな気候も次第に夏のカラカラとした気候に変わっていく。

入学式ではあんなにもぎこちなかった新入生が初めての定期考査を終える頃にはようやく新しい生活にも慣れ始め、自分の色を出し始めていた。


定期考査の成績上位組は、当然のように生徒会長からスカウトされ生徒会に加入していく。


それは、風紀委員会でも言えることで、6月下旬に新たに4名の生徒が風紀委員会に迎えられた。


やはりと言っていいものかわからないが、鏑木先輩がスカウトしてくる面々は個性的で面白い人たちばかりだ。


加入に際し、絵麻が参加してきた時と同じように一年生は常時活動の班分けをするのだが、そこで何故か絵麻と俺、鏑木先輩のグループは崩れることなくそのまま存続した。


絵麻を合わせると一年生が5人であるのと、鏑木先輩が何故か俺たちのグループを解体することを心底嫌がったためそのまま残されて、新入生四人の中で2グループに分けられた。


あの鏑木先輩があんなに頑固なのは初めて見た。

いつもならなるようになれと、適当に行うはずなのに。どういう心境の変化があったかについてはこちらの感知することではないし特別追求すべきでもないので、鏑木先輩の決定にただ首肯した。


しかし、これにより常時活動の時間は確実に減り、週の中で2回あった朝当番はなくなり、昼休みと放課後の見回りだけとなった。早起きして校門に立つ必要がなくなっただけでもよしとしなければ。


今日は、放課後当番だったためゆっくりと登校する。隣には当たり前のように絵麻がいた。俺たちの関係が疑われるのはよろしくないので学校の近くになると別々になるがウチの生徒が見えるようになるまではこうして並ぶようにして歩いている。


「はぁ〜。今日もいい天気ですねぇ〜」


「そうだな〜でもちょっと暑いな〜」


7月中旬に差し掛かったこともあり気温が上昇し朝方でも蒸し暑くなっている。

快晴なのは喜ばしいがこの暑さには参ったものだ。


「衣替えでせっかく薄着になったのに通学するだけで汗をかくのはちょっとイヤです」


「学校についたらクーラーが効いてるからそれまでの辛抱だな。どうする?早歩きすればそのぶん早く着くけど」


「も〜!またイジワル言ってます!せっかく、せんぱいがわたしだけのものになる時間なのにそれを短くするなんて許容できるわけないじゃないですか!!」


「別にお前のものになった覚えは一度もないが…」


「じゃあ、逆ですか??わたしのなかでは最初からせんぱいの所有物……いや、せんぱいの女です」


「モノ扱いは流石に嫌なんだな」


「せんぱいがどうしてもと言って頭を下げるなら……その……一日くらいならやぶさかではないですけど………?」


「……絶対ないから安心しろ」


「つまり、一人の女の子としてずっとおいてくれるってことですか!?」


「誰もそんなこと言ってない!話を脚色させるな」


「むぅ……せっかく「せんぱいの女」っていう言質がとれると思ったのにガッカリです。せんぱいってほんと余計なところで鋭いですよね。凄いと思います」


「こんな一ミリも思ってないであろう賞賛もらったの初めてかも」


「そんなことないですよ。唇から血を滲ませるくらいには思ってます」


「それ尊敬じゃなくて絶対悔しがってるよな?」


こんな感じにいつもと変わらぬ攻防を交わしながら登校する。


「ほら、もうウチの生徒が見えてくるころだから離れてくれ」


「はぁ〜い。大人しくせんぱいをストーキングすることにしま〜す」


絵麻が歩く速度をさげゆったりと歩き始める。別に先に行ってくれてもよかったのだが、絵麻が絶対譲ってくれないので、俺が先に歩き絵麻が後ろからついて来るというスタンスは一度も崩れていない。


もうここまでくると病気だなと後ろで目を輝かせながら歩く絵麻を見てそんな風に思った。



「よぉ〜!今日もゆっくり登校か??」


「あ、おはよう、琴也!」


学校に着くと、いつもの二人が出迎えてくれた。


二人ともクーラーの効いた涼しい部屋で快適そうに談笑している。

翼はしっかり制服を着ていたが大聖に関しては朝練があったらしく体操着に着替えてある。

きっと暑くて制服が着れなかったのだろう。

バスケ部の朝練はジャージでやるそうだから一度着替えてはいるようだ。

朝から練習したりして運動部ってやっぱり大変そうだな……と思いながら机にカバンをおいた。


「おいおい、そういえば、球技大会近いけど琴也って何出るか決めたか?」


せっかく席に座ろうと思ったのにそんな俺の事情など知ったことかと言わんばかりに俺の机を堂々と占拠して大聖が尋ねてくる。


「いや、まだだけど」


7月22〜25日の日程で行われる球技大会がもう5日後に迫っている。

もちろん、球技大会の存在を忘れていたわけではない。風紀委員会は運営補佐で主催側にまわるため参加者という意識が欠落していた。


「そうか!なんか規模デカくなって競技も増えたから何に出るか迷うよなぁ〜!」


大聖のいうように今年からは2日と半日の日程で行われる大規模なものとなる。

当然ながら種目も増えているのだ。


迷っていると言ってる割に大聖は嬉しそうだった。

これが嬉しい悩みというやつなのかもしれない。


「まぁ……僕たちは運営側だからあんまり好きに選ぶことは難しいかもね」


翼も話を聞いていたようで、苦笑いを浮かべそう答えていた。翼は俺と違って去年も主催やっていたから球技大会の運営というものがどのようなものかわかっている。

翼の言う感じだと、俺も参加者というよりかは運営側にフォーカスする必要がありそうだ。


まぁ…競技に関してはなにも言われていないのであとで鏑木先輩から指示が出るだろう。


「なるほどな、今年は二人とも運営側なのか!だと、3人で一緒に出るとかは難しくなってくるか??」


「残念だけど、僕たちは出れて一種目だね」


三日間で出れるのが一種目だといささか少ないようにも感じるがあの準備の量と当日の予定の多さを考えると案外妥当なのかもしれない。


「そうかぁ……残念だが、まぁ仕方ないな。今日の7限のHRで種目希望取るらしいから俺もそこまでに決めとかないと」


風紀委員と生徒会の生徒は今日の7限、運営会議があるため免除されてるが他の生徒たちは各々の教室でHRを行い、そこで種目の希望を取るらしい。


「よしっ!とにかく目標は、どれか一種目で優勝すること!」


そう目標を掲げる大聖を見て、運営が足を引っ張るわけにはいかないと強く思うのだった。



――――――――――――――

更新遅れてすみません。

多忙です。

ここから球技大会に入っていきます。

ちょっと収まるか不透明どころかだいぶ厳しくなってきたのでこの前言ったことは作者の希望程度に思っててください。(1話あたり4000~5000字程度で計算してました)

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