Bパート 第1校

「いやはや、困ったものだよ。まさかここまで手がかかるとはな」

「敏腕な支部長もお手上げですか? それなら彼はなかなかの運のよさとも言えますけど」


 何か会話をしながら二人の男性が入ってくる。

 俺は何となくその二人に顔を向けるが、会話に夢中なのか気づいていない様子だった。


「それで、例の配信動画の件はどうなりましたか?」

「そのままだよ。あれは証拠にもなるからな」

「ですが、あれにはタクティクスが映ってますが」

「仕方ないよ。あの動画がないと追い詰めるられん。それに今後の抑止力としても残しておきたいしな」


「そっちが本音ですね。ま、質を保つには仕方ありませんか」

「量もなければ質は磨かれんがな。とはいえ、どちらもやるとなると骨が折れる」

「ハハハッ、そうですね」


「もしもーし、お二人さーん」


 何のやり取りをしているのかわからずに聞いていると、暇を持て余していた霧山さんが声をかけた。

 途端に会話をしていた二人は俺達に気づき、難しい顔から笑顔へ変わる。


「おっと、まだいたのか瑠璃ちゃん」

「アンタが仕事を押し付けたんでしょ、支部長!」


 まず霧山さんに声をかけたのは初老の男性だ。

 短くまとめられた黒髪は白髪が混ざり、顔はシワくちゃだが身体を相当鍛えているのか筋骨隆々である。


 そんなムキムキな男性は豪快に「ガッハッハ」と笑った後、霧山さんにこう告げた。


「そうだったな。すまんねぇ、瑠璃ちゃんよ。こう見えてもワシ、結構忙しくてな!」

「そういってまた西鬼とキャバに行ったんでしょ! 私、知ってるもん!」

「いや、僕はそういうのに興味ないから……」


 霧山さんの言葉に呆れを抱いているイケメンがいた。


 緑色に染まった長髪を後ろでひとまとめし、中性的な顔には柔和な笑顔が浮かんでいる。

 隣に立つムキムキな初老とは違い、線の細さが際立つ男性だ。


 そんなイケメン、いや西鬼さんはブーブーと文句を言い騒ぐ霧山さんに手を焼いている様子だった。


「ん? そこにいるのは誰かな?」


 そんな困り果てている西鬼さんは俺の存在に気づく。

 俺はひとまずカウンターから西鬼さんへしっかり身体を向ける。


 やれやれ、挨拶をしなきゃいけないか。

 そんなことを思っていると西鬼さんは「あっ!」と唐突に声を上げた。


「君、黒野くんだね。黒野鉄志くん!」

「え? なんで俺の名前を?」

「なんでって、さっきまで配信に映っていたじゃないか」

「あー……」


 そういえばなんやかんやでアヤメの配信につき合っていたな、俺。

 なら、その配信を見てた西鬼さんに名前を知られていてもおかしくはないか。


「いやー、しかしあの戦いはすごかったよ。まさか君が【機巧剣タクティクス】を持っているなんてね。あれ、どうやって手に入れたんだい?」

「え、えーと――」

「コラコラ、西鬼。質問をするのはいいがしっかり名乗れ。誰しもお前のことを知ってるわけじゃないぞ」

「それは支部長にも言えますけどね」


 イケメンに興味を持たれ、困っている俺に助け舟を出すムキムキな初老。

 そんな初老にツッコミを入れる霧山さん、という変な構図が出来上がっている。


 ひとまず指摘を受けた二人は「それもそうだね」「一本取られた」と笑いながら言葉を放ち、俺に自己紹介をし始めた。


「まずは僕からだね。僕は西鬼優作。こう見えても星七つさ」

「え? 星七つ!?」

「ハハハッ、結構身体が細いからそんな風に驚かれるよ」


 この爽やかイケメンが星七つ。

 すごいな、どう見てもそんな力強さは感じられないんだけど。


「次はワシだな。ワシは門倉栄一だ。ここの支部長をやっておる。ちなみに瑠璃ちゃんとは親戚関係にある」

「え!? 瑠璃ネエの親戚!!?」

「そうだそうだ。あんまり似とらんだろ」


 似てないかどうかと言われればなんか面影がある気がするとしか言えない。

 本人がいるから言わないけど。というか言ったら殺されるから言わないでおこう。


「えっと、俺は――」

「知っておる。星一つの黒野鉄志だろ? さっき配信をみて調べたわい」

「え? 支部長も見たんですか?」

「ああ、見たぞ。お前さんが手を焼きながらあの困った奴をぶっ飛ばしたのもな」


 恐るべし有名配信者の配信。

 俺は改めてアヤメの影響力に感服しつつ、恥ずかしいところを見られたなとも思うのだった。


「あ、そうだ。支部長、鉄志を星三つに上げてほしいんだけどいい?」

「突然どうした瑠璃ちゃん? この子のランクアップはまだできんぞ」

「そんなこと言わないでって。報告によると鉄志は【機巧剣タクティクス】以外に【神皇の花飾り】を手に入れてるし、強化ボスも倒してるのよ」

「え? それ本当か?」


「ええ、まあ」

「私の見積もりだと星三つ相当へのランクアップはできるんだけど、どうかな?」

「ふーむ、なるほど。本来なら昇格試験やら手続きやらいろいろやらんといけないのだが……まあ、探索者はまだまだ欲しいところだしな」

「じゃあランクアップしてくれるの!?」


「そうもいかん。だが特例として実技試験をしてやろう」


 実技試験?

 なんだか妙な話に発展し始めているな、と感じていると静かに様子を見ていた西鬼さんが前に出る。

 支部長に顔を向け、ニッコリと笑ってこう告げた。


「いいですよ、門倉支部長。今回、特別に試験官をしましょう」

「お、じゃあ頼むわ。ワシは審判をしとるよ」

「ふふ、腕がなりますね。そうだな、今度は楽しいバーに連れていってくださいよ」

「よしきた。じゃあ取っておきのバーに連れていってやろう」


「あ、あの、実技試験って? いや、それよりも俺、まだやるなんて言って――」

「黒野くんにはこれから僕と戦ってもらうよ」

「そうだ。言っておくが西鬼は強いぞー」


 強いぞー、ってちょっと待て!

 俺の話を聞いてたか、おい。


 こうして俺は星七つ探索者の西鬼さんを相手に昇格するための実技試験をやる羽目になった。

 しかも強制的に。


 なんでこんなことになるんだよ、と心の中で叫びつつも俺は試験会場へ連行されたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アイテムコレクター 小日向ななつ @sasanoha7730

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る