6.心霊番組
子どもの頃、テレビに齧り付いて見ていた大好きな番組があった。
『怪奇?!心霊写真特集!!』
おどろおどろしいBGMと共に映し出されるキャッチーなコピーと、不可解な写真の数々。嘘かどうかなんて気にならないくらいにゾワゾワとくるそれらは、幼少期の俺にとって魅力的でたまらなかった。
その経験をキッカケに、俺はオカルトに傾倒した。自分でそれっぽい心霊写真も作った。だが、自分で捏造したそれはチープで、とてもじゃないがあの頃に感じた熱狂的な興奮は感じられなかった。やはりテレビに流れるような本物には敵わないと心底思った。
大人として社会に出る頃になっても、俺のオカルトへの…いや、心霊写真への執着はなくならなかった。そうした俺の気持ちとは裏腹に、世の中のオカルトへの風当たりは強くなっていき、気付けば心霊特集自体が嫌われ、放送があればヤラセだなんだとネットで叩かれる始末だった。俺はその状況を憂いていた。ヤラセかどうかなんて、視聴者側の俺らに断言できるものなのか?そんなにいうなら、俺が、俺自身が!この世に幽霊が…本物の心霊写真があるってことを、証明してやる!俺がテレビに齧り付いていた時のように、おまえらに心霊写真の魅力を伝えてやる!
そう決めてから俺は就職先をテレビ関係に絞った。心霊番組が作れるならどこでもいい、という思惑を隠して、懸命に就活に努めた。結果、小さな製作会社に就職することができ、そこから俺はひたすらに、周りの信頼を勝ち得ようと努力を重ねた。いつか、自分が望む心霊写真の番組を作れるチャンスがきたときに、誰にも邪魔されないように。
そうしてやっと手に入れたチャンスだった。
キッカケは単純で、ネットの動画投稿サイトを発端に心霊ブームが起こったのだ。ブームが起きている今ならテレビでも心霊番組が組めるのではないか、と期待した俺はすぐに企画書を作り上げ、上の人間に直談判した。ネットの反応やムーブメントを知った上層部は、多少渋りながらも、何かあった時の責任は俺が全て被るというしつこい訴えに負け、GOサインを出してくれた。
俺はネット上で心霊写真の投稿募集をした。動画サイトに住まう大物心霊動画投稿者にもコラボを打診し、チャンネル内で番組映像を無償で使用しても良い事などを条件に、協力を得ることが出来た。なにより収穫だったのは、同じ心霊好きとして投稿者と意気投合できた事だった。今回の企画が成功したら次がある。そう思わせてくれる出来事だった。
そうして集まった心霊写真は1000枚を超えた。正直、こんなに集まるとは思っておらず、急いで人手を増やして選別作業に入った。明らかに加工と思われるものは事前に省き、あとはインパクトがあるか、一目見てゾッとするか、そういった様々な直感や基準を元に、精鋭たちを選び抜いた。選別に協力してくれた投稿者たちと一緒に、画像をまとめたファイルを見直したときは、全員で生唾を飲んだ。これ、怖いっすね。絶対ウケますよ!深夜のテンションもあってか、ハイタッチを繰り返し、番組の成功も確信した。
あとは内容の編集をして…。
そんな風に今後のスケジュールを考えながら仮眠室でウトウトしている時だった。映像の編集作業を任せていた山崎が、真っ青な顔で仮眠室に飛び込んできた。
「漆原さん!!!!起きて!!!起きてください!!!はやく!!!」
尋常ではないその様子に、彼が決して悪ふざけをしているわけではないと察した俺は、半ば寝ぼけたまま山崎の後についていった。編集室では山崎の他に、もう一人作業していた者がいたが、そいつも何やら口をパクパクさせては手元の画面と、確認用に設置された大型のモニターを繰り返し見ていた。
「どうした、何があった」
「ないんです!!」
「へ?」
「心霊写真の、変な部分が!全部!なくなってるんです!!」
泣きそうな顔で声を荒げる山崎に、俺はどうしたらいいか分からなくなった。おろおろと、「え?なくなった?」と戸惑う俺に、山崎は見せた方が早いと思ったのか、素材である心霊写真を次々にモニターに映した。
「これも、これも、ほら、ここにあった顔も!逆に消えてた頭が戻ってる写真もあって!」
「……は…?」
「これも海の中にいた変な奴がいなくなって…漆原さん?聞いてますか?!あの、これ、どうしたらいいんですか!」
山崎の言う通り、あれだけ熱意をもって選抜した心霊写真の中から、心霊部分だけがケロリと無くなってしまっていた。
「うそ、だろ」
俺は信じられない光景を前に、ただただ、ふざけるなと怒りに震えるしかなかった。
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