どうやら、乙女ゲームの皮を被ったRPGのラスボス令嬢に転生したようです
田中加奈
第1章:どうやら、少女は企てるようです
1.どうやら、乙女ゲームの皮を被ったRPGのラスボス令嬢に転生したようです
夜中、ハッとベッドから起き上がる。
光石に意識を向け、部屋の明かりをつける。
鏡に映る自分の姿は、艶やかな黒髪のロングヘアー、目はパッチリ、人形のように整っている顔。
「やっぱり、ラスボスか~」
その姿は、私がハマっていたゲームのラスボスだった。
まだ、幼いけど。
※
クローディア・ブラキシス。
王国を守護する四家の内の一つである、ブラキシス家の一人娘。
才能に満ちあふれる才女。
行き過ぎた才能から魔王に危険視され、無実の罪で幼馴染に殺されてしまう。
シリーズの中で最も強く、プレイヤーと仲間のレベルをカンストし、装備品も最高級のものでないと対抗できない。さらに、勝つためには、宝具と呼ばれる武器のレベルもカンストしないといけない。
バランスが崩壊していると制作会社に苦情が殺到したほど。
ちなみに、ゲームのジャンルは乙女ゲームである。決してRPGではないと、制作会社が否定している。
※
今は十歳。ゲームでは、殺されるのは十七歳だった。あと七年しかない……。
やらなきゃいけないことはなに?
頭の中を整理する。
まずは、レベルを上げないと。何もせずに殺されるわけにはいかない。最終的には、ゲームと同じくらいにはなりたい。
レベルが上がり切ったら、ダンジョンの中層にあるレベルキャップを解放できるアイテムを取得する。
あとは、宝具を使えるものにする。まあ、これはレベルを上げていけば、勝手に使えるものになるから、放置してていい。
今の私のレベルは10。最初のレベル上限は50。
国を守護する四家の一つということで、学園に入学する前に経験を積ませるために、数回、幼馴染たちとダンジョンに入り、魔物を倒したことがある。そのおかげでレベルが上がっているけど、この程度は入学後半年で、誰でもなれる。
それに、低層で上げられるレベルは、頑張っても20までだ。それ以上は、中層に入らないと効率が悪くなる。
当面の目標は、レベルを50にすることだから───
「こっそりやらないとダメか……」
明日は、学園の入学式。入学すれば、いつでも正規にダンジョンに入れるようになる。
幼馴染たち、特にアリスは私と一緒に入りたがるだろう。それだと、レベルが上げずらくなってしまう。ゲームと同じ仕様なら、経験値が人数で分配されてしまうからだ。
それに、ゲームの知識を使ってレベルを上げていくのだ。一緒にいると、どうして、そんなことを知っているのか説明しないといけない。
だから、みんなと一緒にダンジョンに入るときは、そのことを隠し、目立たないようにする。夜中に、ダンジョンでレベル上げにいそしむ。
お肌の健康には悪いが、自分の命がかかっているのだ。多少の肌荒れや睡眠不足は覚悟しないと。
……お嬢様が染みついてしまっている。
変な時間に起きてしまったことと、自分がラスボスだった衝撃から、目を瞑っても寝付けない。
ホットミルクを淹れるため、自室の冷蔵庫から牛乳を取り出し、カップに注ぐ。魔法で温めるためにカップに手をかざし、呪文を唱えようとして、ふと気付く。
これ、意識向けるだけでできるのでは?
部屋を明るくした時、手をかざしていないし、何も唱えていない。
試しに、何も構えず唱えないで、カップに意識を向ける。すると、ほんのりと湯気が出てきた。
───できた!
一口飲むと、私好みの温度のホットミルクが出来上がっていた。
この技術は次の作品からしか出来なかった。コンシューマーからフルダイブVRになり、思考を読み取れることができるようになったからだ。
でも、どちらもこの世界での“魔法”なのだ。できて当然なのかもしれない。
この世界は、よく舞台にされる中世よりも少し進んでいる。冷蔵庫もあればクーラーもある。それに、電車と車もある。しかし、テレビやスマホはない。そこまでは発展していないというよりは、これ以上発展しないように調整されていると言った方が正しい。
さらに、この世界での魔法だが、実はナノマシンによって発動している。ネタバレになるが、この事実は、次作で明かされているのだ。
ナノマシンが魔法の使用者の意図をある程度補完し、現象を生じさせている。なので、個人で一つの属性しか使えないなんてことはないし、呪文も必要ない。
……だが、長い歴史の中でその事実は消され、今では、属性の適正や魔法のランクなどがあると教えられている。
ホットミルクを飲み終え、口をゆすぎ、ベッドで横になる。
明日から、アリスたちには隠し事して接していかなければならないのかと、少し、罪悪感が芽生える。
瞼を閉じ、自分が生きていくためだと、言い聞かせながら眠りにつく。
「クローディア様、おはようございます」
私専属のメイドであるフィスカの声が聞こえ、眠い中起き上がる。
「おはよう」という私の顔を見て、フィスカが驚き、すぐに温かいハンドタオルを差し出してくる。
「目元が腫れてます。怖い夢でも見ましたか?」
受け取りながら、夢の中でゲームのアリスたちに殺される場面を見ていたことを思い出す。
「……そうかも。思い出せないわ」
夢の光景を話せるはずもなく、誤魔化す。
フィスカは心配しながら、「そんな怖い夢、覚えていない方がいいのです」とこちらを励ます。
「そうね」と返し、身だしなみを整えるようお願いする。
学園の制服に身を包み、ほんの少し憂鬱な気分になり、朝食をとるため食堂へ向かう。
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