第17話 王の覚醒
そして――
コン コン
「はい、どうぞ」
ガチャリ
「失礼します……店長、お呼びでしょうか……?」
――パートの
「うん、そこ座って」
「はい……あの、私何かしましたでしょうか……?」
「あっ! 違う、違う! そういうことじゃないよ! ただ、ちょっと心配で……」
「心配?」
「何だか凄く元気が無いなって……何か困っていることとかあるのかな?」
「えっ……あの……仕事で困っていることはないです……」
「じゃあ……家でのこと? 旦那さんのこととかな? あっ、ゴメンね! そんなこと聞いちゃいけないよね!」
「いえ、気になさらないでください」
「小柳さんの可愛い笑顔を最近見ていないから、本当に心配になっちゃってさ」
「可愛い……? 私が……?」
「うん、俺は小柳さんの笑顔に元気をもらっていたからね!」
小柳さんは膝の上で拳をぎゅっと握っている。その拳に俺は優しく手を重ねた。
「何があったのかな? 俺に話せる?」
「……夫が冷たくて……私を気持ち悪いって……」
「そんなことを……」
「……最近は帰りも遅いし……スーツから女物の香水の匂いも……」
「そっか、辛かったね……俺にできるのは胸を貸すことくらいだけど……いいよ、たくさん泣きな」
俺の胸にそっと頭を寄せた小柳さんは、身体を震わせながら泣き始めた。俺はただ彼女の頭を優しく撫で続ける。
つーかまーえた――
俺はニヤけ顔を止めることができなかった。
こんな簡単に釣れるとは思わなかったぜ。世の旦那衆は、自分の女を大切にすることができないらしい。自分の妻をこんなに深く傷つけておいて、平気な顔をしている夫がこうして普通にいるのだから。お陰で満身創痍の女が量産される。
俺はそこをパクリといくわけだ。
『ねぇ、店長。この店には私と同じ「主婦」という立場のパートが何人いる? そして、この店の王様は店長、あなたなの』
高月さんの言葉が何度も俺の脳裏でリピートしている。そう、俺はこのスーパーマツナガの王様なのだ。たくさんいる家来共を俺の側室にしてやるんだ。心を深く傷つけられた哀れな女たちを俺が救う。つまり、俺は王であり、女たちの救世主。その対価として、理想の家族を永遠に失った俺をその身体で慰めてもらおう。それが彼女たちの癒やしにもなるのだ。まさにウィン・ウィンではないか。
「小柳さん、ご飯でも食べに行こうか。美味しい焼き鳥屋さん知ってるんだ。俺、ご馳走しちゃいますよ」
俺の胸で泣いていた小柳さんが、涙に濡れた顔を俺に向ける。
「俺、小柳さんの可愛い笑顔を見たいから」
笑顔を浮かべた小柳さんは、嬉しそうに頷いた。
焦ったらダメだ。まずは信用させないとね。だから、何度も食事に誘ってあげて、愚痴を聞いてあげて、彼女を褒めちぎってあげて……タイミングを見て、パクリ。
俺はハンカチを出し、笑顔で小柳さんの涙を拭ってあげた。
数週間後――
「店長……私、今夜は遅くなっても大丈夫です……」
「小柳さん……わかった。でも、お互い本気にはなれないよ」
「分かっています……でも今この瞬間は、私だけを愛してくれませんか……?」
「……わかった、約束する。小柳さん、愛してるよ」
三回目の食事の後、小柳さんと身体を重ねた。店から離れた場所にあるインター近くのホテル。部屋に入った瞬間に、彼女と激しく唇を重ねる。ベッドの上で小柳さんをひたすら求める俺に、彼女は絶叫するような
チョロすぎる――
それが俺の本音だ。別に俺はイケメンなわけでもないし、多少の金はあっても金持ちっていうわけでもない。おそらくもっと年の若い女性であれば、俺なんてまったく相手にされないだろう。しかし、俺の城にはたくさんの満身創痍の女がいる。上手に心の傷をくすぐってやれば、こうして俺の側室にすることができるのだ。それに、ひとの女を奪い、身体から心まで
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
小柳さんと身体を重ねてから三週間。彼女との関係は続いていた。向こうが拒否しない限り、やめようとは思っていない。
コン コン
「はい、どうぞ」
ガチャリ
「失礼します。店長、何かありましたか?」
店の事務室にやって来たのは、パートの大久保さんだ。
「急にゴメンね。いや、最近大久保さん元気無いなって、心配になってさ」
情欲に身を任せる俺。もう涼子のことは忘れたい。何もかも無かったことにしたい。そんな叶わぬ思いが、俺をさらなる寝取りに走らせる――
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<次回予告>
第18話 裸の王様
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