シアワセノカタチ ~母親の不倫によって崩壊していく家族、傷ついた中学生の娘と苦悩する父親が新しい幸せの形を見出すまで~
下東 良雄
プロローグ 予兆
第1話 暖かな思い出
目が痛くなるほどの空の青さ。雲ひとつない
「はい、皆さん、心の準備はいいですかぁ! あっ、お父さん! 奥様と娘さんの後ろの真ん中に! そのままおふたりの肩に手を置いてみましょうか……はい、そうです! いいですねぇ!」
玄関脇に「高木」という表札が掲げられた一軒の少しこじんまりした新築の建売住宅の前には、夫婦と
誰が見ても思わず笑顔になるような幸せに満ちた家族。
「ほらほら! お父さん、照れないで!」
近所の住民たちもそれを見に来ており、妻と娘の肩に手を置く住宅の主人へ暖かい野次を飛ばし、住宅地は笑い声が溢れた。
そんな声に照れ笑いする主人。
(小さな家だけど、これでオレも一国一城の主か……頑張って住宅ローンを返済していかなきゃな)
妻は、自分の右肩に置かれた真一の手にそっと自分の手を重ね、後ろを振り向き、真一と微笑みを交わした。
(あなた、お仕事も家庭の事もいつも頑張ってくれてありがとう。私、本当に幸せ。家はちゃんと私が守るからね)
「お父さんもお母さんもここでイチャイチャしないの! まったく!」
仲の良い両親の様子を笑いながら冷やかす娘。その笑顔は幸せ一杯だ。そんな娘からのツッコミに両親も思わず苦笑い。周りにいた近所の住民たちからも笑い声が上がった。
「高木さん! 周囲に幸せを振り撒き過ぎですよ!」
仲の良い三人家族の様子に、カメラマンからも思わずツッコミの言葉が飛び、また周囲から笑い声が上がった。
照れで顔を赤くしながら改めて整列する三人。その三人を画角に収めようとデジタル一眼レフカメラを三脚で構えるカメラマン。カメラのファインダーには、向かって右手に娘の美咲、その左に亜希子、ふたりの後ろの真ん中に真一が映っている。バックには「高木」の表札と家の玄関。一生残るであろう家族の記念写真の撮影に、カメラマンも気合が入った。この最高の幸せを写真として切り取らなければいけないのだ。
「はい、いい感じです! ハイ、チーズで撮りますからね! じゃあ、皆さん笑顔で! 撮りまーす。ハイ、チーズ」
カシャリ
「もう一枚撮ります! いきますよー、ハイ、チーズ」
カシャリ
「はい! お疲れ様でございました! 住宅のご購入、本当におめでとうございます!」
カメラマンからの祝福の言葉に、周囲にいた住民たちも、新しくやって来た家族へ歓迎の気持ちを込めて大きな拍手を贈った。三人も笑顔で周囲に何度も頭を下げ、この街、そしてこの家での新しい生活に思いを馳せた。
しかし――
真一たちはまだ知らない。ほんの小さな気の迷い、たった一度の
『幸せの形』を追い求める人々の物語が、幕を開けようとしていた。
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<次回予告>
第2話 幸せな日常、手招く悪意
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引き続き『シアワセノカタチ』をお楽しみください。
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