第34話 王都へ x 出立

葬式が終わってからホテルに戻りベッドの上で大の字に寝転ぶ。頭の中に浮かぶのは先ほどの葬式のことだ。いや、葬式のことというより死というものについてか。


今の自分が死んだときはどうなるのだろう? それ以前に前の自分の死がどういうものだったのかも良くわからないのだが。


そもそも今の自分に死という概念があるのだろうか? 少なくとも人間としての死、、、。というか生き物としての死は今の自分にはないのかもしれない。


ただの石だ。事実を端的に述べるならそういうことなんだろう。いや、ただの石ってことは無いか。それにしては特殊すぎるような気がする。俺は自分のことについて知らなすぎる。あの男に詳しく聞いていれば良かった。あの時にそんな余裕はなかったが。


心を落ち着けようと魔力順化の訓練を始める。こういうときは無心になれるものをやるのが一番だ。


どのぐらい訓練していただろう。部屋のドアをノックする音に気づく。遅れて魔力の気配を感知する。セリアだな。訓練に集中できていたから気づけなかったようだ。


ドアを開けて応対する。


「夕食まだだろう? 一緒に行かないか? 」


もうそんな時間か。意識をすると急に腹が減ってきた。


「ああ、一緒に行くとしよう 」


俺たちは連れだって前回と同じレストランに来た。今回は自分で選んでみる。


牛肉にしよう。ローストビーフのような料理だと思われるものを注文する。セリアはまた魚料理にしたらしい。俺が頼んだローストビーフ風の料理はまさしくローストビーフと言った見た目だった。


薄くスライスされた牛肉の断面は内側がほんのりと赤みが残っている。予想したものと大体同じものが出てくると翻訳の精度が上がったように感じるな。


その上につぶつぶが入っているソースがかかっている。この粒は何だろうと思ったがどうやら果物の種のようだ。味はイチジクに似ている。バルサミコ酢のようなものを入れたのか、酸味がありそのなかにねっとりとした甘味を感じる。これは悪くない。


やわらかい牛肉をかみしめると牛肉のうまみがソースの酸味や甘味と混じり合っていい塩梅の味になる。種のぷちぷちした食感がいいアクセントになっている。


今のところ外れがないな。せっかくの異世界だから変な味に挑戦してみたい気持ちもあるがやはりうまいにこしたことはない。


セリアが頼んだ魚料理はマグロのような見た目の切り身にキノコが入ったホワイトソースがかかったものだった。それもうまそうだったがあまり見ていると「食うか?」って聞いてきそうだったからチラ見に留めた。


会計は自分で払おうとしたがセリアに断られた。年上に譲るものだと言われたが一体いくつなんだろうな。聞いていいかわからないから聞けない。


辞典には載ってないんだよ。そういうことは。


別れ際に明日は朝の鐘ぐらいに出立すると言われた。さっさと寝て明日に備えよう。


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次の日、朝食を食べようとロビーに出たらセリアと鉢合わせした。


同じことを考えていたらしい。一緒に食べることになった。モーニングをやっている店を知っているらしいのでそこにすることにした。


焼いた細長めのパンを二つに切って皿に並べたものとパンに塗るバターやマーマレード。香味野菜や香草をみじん切りにしてオリーブオイルで炒めたようなペーストっぽいやつ。これはパンにのせて食べるのか。ほかにサラダとスープとゆで卵がある。


セリアの方をちらっと見るとバターをパンに塗った後ペーストをのせて食べたり、バターやマーマレードのみや組み合わせて食べたり特にルールは無いようだった。


ならばと思いすべてを同時にやってみた。なかなか意外と悪くない。だが積極的にやるほどでもないか。


視線を感じたのでちらっとセリアを見たら目を見開いて驚いた表情でこちらを見ていた。余談だが美人が手づかみで食べるとか驚いた表情を見せるとかなんかそれだけでドキッとするな。よくわからんが、美人は得だな。


いよいよ王都に向けて出発することになる。チェックアウトを済ませて外に出ると、セリアは先に出て待っていた。


「こちらの服を買ったんだな。以外と似合っているな。前の方が良かったが 」


「あれはこちらでは買えないからな。汚れたりしてもいいようなものを用意した。それにあれは目立ちすぎるような気もするしな。セリアも今までに無い服を着ているな 」


「私も汚れてもいい服を着てきた。かなりの速度で走るから土埃つちぼこりが気になるのでな 」


「王都まではどのぐらいかかるんだ? 」


「三日ほどかけようと思う。本当に全力で跳ばせば二日でいけると思うがこの国を知ってもらうために大きな町や都市にはなるべく寄ろうと思う 」


「それほど気を遣わなくても大丈夫だが 」


「気にしなくていい。全力は流石に私でもきついからな。三日ぐらいがちょうどお前にとっていい訓練になるような配分だろう 」


「、、、そうか 」


「では出発しよう。私の後についてくるがいい 」


こうして俺たちは王都に向けて出立することになった。道中何が起こるのか? 王都で生活基盤を作ることが出来るのか?


不安よりも期待が先に来るな。


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