興信所所長との会話2

 まあ、こっちも商売ですからね。金さえもらえば、やるこたやりますよ。

 ミカさん?でしたっけ。お互い共通の知人を持ってるってわけだ。


 そう、小杉さん。あなたに中山美歩のことを聞きに来た、編集者。私はまあ、彼の商売仲間みたいな立場でしてね。

 本のネタに使う事件や何やらの、法的な安全性なんかを調べてました。今回は、まあ、特例というか……。


 そうですね。本題に入りましょう。

 小杉さんはかなり核心に迫っていたようです。中山美歩と、もう一人。黄色いワンピースの女達の正体にです。


 私は幽霊だの野良神だのは信じませんが、小杉さんの命に免じて、今回はポリシーを曲げます。

 問題は、中山美歩がなぜアザバラノスクナ化したかです。中山美歩とオリジナルのアザバラノスクナが、いったいどこでリンクしたか。

 情報を整理すると、鍵はやはり、涅槃未知果です。


 涅槃が作家活動を開始したのと、中山美歩が冤罪収監された時期はきれいに重なります。どちらも90年代初頭。

 中山美歩が収監され、そして獄死したのとほぼ同時に、涅槃が最初の同人誌を出している。黄色いワンピースの女が描かれている本をです。


 黄色いワンピースの女、つまりオリジナルは、何らかの条件を満たした時に被害者に取り憑いている。


 一つは、霊障で変色した米や、それに類するものに触れた時、見た時。

 一つは、被害者の死体や肉片に触れた時、見た時。


 恨みの対象に比較的自由に接触できる中山美歩とは、明らかに違います。


 オリジナルは人間に取り憑くために、何らかの物理的なリンクが必要なのだと思います。おそらくは人間がアザバラノスクナを、何らかの形で認識しなければならない。


 動物の体臭を嗅いだり、足跡を見たりすることで、狩人が動物の存在を察知するような。そういう手続きがあって初めて姿を現せるのでは。


 絵に描かれたアザバラノスクナを見ることで、その手続きができないか。私にはそういう試みが行われている気がするんですよ。

 漫画に登場する黄色いワンピースの女が、実在すると認識されれば、アザバラノスクナは漫画の読者のもとに行けるのかも知れません。


 涅槃未知果はアザバラノスクナに協力しているのではないでしょうか。だから生かされている。


 ミカさん。涅槃未知果を確保します。

 正直なところ、さっき頂いたお金では割に合わないんですが……。


 結構。お金の出どころは聞きません。

 では仕事にかかります。


 この棚主三郎タヌシサブロウにお任せください。

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