ある絵本作家へのインタビュー

 まいったなあ。そんな大昔のことをほじくり返されるとは……。

 まあ、別にいいですけどね。

 そう、モンキさんは僕の作り話ですよ。口裂け女が流行ってたんでね、それに便乗して一本書いてくれって、オカルト雑誌の編集長に頼まれたんです。

 愛知に見た!新種の口裂け女!ってね。


 まあ反響はほとんどありませんでしたけど。地元で流行っただけでね。なにしろアナタ、本家の口裂け姉さんの方はアグレッシブですからね。自分からコミュニケーション取ってくるわ、猛スピードで追いかけてくるわ。

 それに比べてモンキは、壁に向かって立ってるだけですからね。そりゃあ流行らない。


 え?

 元ネタ?

 えー……そこまで突き止めてんですか?

 まいったな。ここだけの話にしてくださいよ。僕は今はもう、児童文学の方で売れてんですから。これっきりですよ。

 モンキさんの元ネタはね、僕が大学時代に出会った民俗学の先生から聞いた、アザバラ様……字散様って書くんですがね。これですよ。字とは平たく言えば土地の名前のこと、散はそのまま、とっ散らかすって意味です。つまり、地名が霧散して、人に忘れ去られてしまった場所で生まれた、神様です。


 土地に縛られない、そして人に崇められることもない、無名の神様。信仰から離れた野良神ですね。これは神様と言っても良くない神様で、人を騙したり襲ったりします。

 字散様は若い女の姿で現れて、美しい後ろ姿で軽率な者や、心根の卑しい者をおびき出すそうです。


 そして字散様は、黄色い衣をまとっている。黄ってのは神話の世界では象徴的でね。ほら、黄泉の国とか。言うでしょ。でも黄色は古くは赤の亜種って捉え方をされていて、赤はつまり、血の色。生命の色だ。字散様は生と死に深く関わった神様なんだな。はっきり言えば人間に生命を与えたり、奪ったりする。


 死神。そう呼んでもいいかもしれない。

 人間を試して、裁くんだ。

 その匙加減、裁量ってやつは、現代人に納得できるものかは分からない。

 なにせ、悪い神様だから。根本的には。

 僕が知ってるのはこのくらいかな。


 ん?米?字散様を怒らせる古米?

 何ですか、そりゃ。

 僕は知らないねえ。


 ああ、でも、生米や米で作った酒を魔除けに使うってのは、聞いたことがありますね。

 米には魔を払う力があるから、悪いものに襲われたら米を食べたり、玄関先に飾ったりするそうですよ。地方によっては。


 ほら、不動産屋が事故物件を売り出す前に、部屋に酒瓶を置いたりするでしょう。験担ぎのつもりでしょうがね。悪いものが取り憑いてる場所に置いた酒は、短期間で濁ってまずくなるそうです。だから事故物件に寝かせた酒を飲んで、味で危険度を測定するわけだ。

 悪い場所に置いた生米は、まあ、汚くなるんでしょうな。消し炭のように真っ黒になったりすると聞いたことがあります。よくないものを吸ってね。


 アナタ、言っときますが、危ないことはしてはいけませんよ。

 絵本や漫画じゃないんだから、本当に悪いものに襲われても、そう簡単には助けてくれる人は見つかりません。


 近づかないのが一番ですよ。

 初めからね。

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