奇色いワンピース

桜田万作の死に関するやりとり

桜田様。

いつもお世話になっております。

小杉哲也（こすぎてつや）です。

お探しの『黄色いワンピースの女』の資料を社のデータベースで検索しましたところ、3件ほど怪しいものがヒットしましたので報告します。

基本的に都市伝説の類ですが、創作の場合、著作権者がいらっしゃる可能性があるのでご注意ください。

・口裂け女の亜種

80年付近に流行した都市伝説『口裂け女』の一形態に、黄色いワンピースを着た女が存在しました。出現場所は愛知県で、現地の人には『モンキさん』と呼ばれていたそうです（モンキチョウから来ていると思われます）。髪型は不明でマスクをせず、裂けた口を丸出しにしていたそうです。

面白いのは、モンキさんは極めて消極的で、通行人を呼び止めて「私きれい？」と訊くようなことはせず、壁や電柱に向かってただ立っているそうです。そして自分の顔を覗き込んだ者だけを襲い、顔を指で引き裂く。近づかない限りはまるで無害な怪異のようです。

・アザバラノスクナ

こちらは動画投稿サイトで拾った文字列です。自称神主の息子が心霊系ユーチューバーを名乗り、視聴者から送られてきた呪物（笑）を浄霊するという企画を打っていました。全十二回の企画の内、十一回は愚にもつかないゴミを浄霊していましたが、最終回でハプニングが起きました。

送られてきた呪物は大きな重箱に詰められた米でした。茶色や黒に変色した、ひどい古米です。神主の息子は他の回と同じように下手くそな祈祷をして浄霊をしたのですが、動画の後半になって、突然古米を食べると言い出したんです。そりゃあ現地にいるのは彼一人です。誰も止めません。

この時の彼の表情はぜひ添付したファイルで直に見て頂きたいです。台詞もかなりキてます。「これは食べなきゃ」「一生に一度出会えるか出会えないかの飯」「脳の栄養になる」。正直、ふだんのヤラセ全開の三流演技よりずっと面白いです。言動が意味不明ですがそれが逆にリアルで。

で、古米を自宅に持ち帰って水道水で洗って、炊飯器に入れちまったんですよね。アパートの外観とか表札とか全部映ってしまってました。炊飯が終わったら、汚い米を茶碗に盛るわけですよ。でも、食べないんです。食べなきゃって言ってたくせに。飯の真ん中に箸を突き刺して、窓辺に飾ってるんです。

そのまま飯の前に正座して、それを何十分も映して動画が終わるんです。異常過ぎて、視聴者の中から安否確認に乗り出すやつが出てきて、でもアパートに行ったら引っ越した後だったんですって。当然動画チャンネルはそのまま停滞です。神主の息子は依然行方不明。一時期オカルト界隈で話題になりました。

で、最後の動画を検証したり解析したりしたデータがネット上にアップされてるんですが。夜間撮影された動画の明度とコントラストを調整すると、出てきたんですよ。動画の奥の暗がりから、ワンピースの女が。重箱を開封したあたりから、アパートの炊飯を経て動画が終わるまで、ずっとついてきてます。

闇の中からずーっと神主の息子を見てるんですよ。顔は結構可愛い感じなんで一見するとヤラセくさいんですがね。髪型はショートです。うなじが見えます。で、映像ではなく音声の方を調整したデータもあるんですが、音量を数倍に上げると、誰かがずっと小さな声で何かを言ってるんですよね。

アザバラノスクナ。そう聞こえます。アザバラノスクナが、アザバラノスクナに、そんな感じのギリギリ全文聞き取れないセリフがどこからか聞こえるんです。神主の息子が窓に向かって飯を置いた直後からぷっつり聞こえなくなるんですがね。ワンピースの女だけずっと神主の息子の後ろに立ってます。

厳密にはこの女のワンピースは黄色というより、白に近いんですが、面白いんでレポートに入れました。まだ誰も本にしてない事件なんで桜田さんが書いてくれるなら喜んでプッシュしますよ。女の顔も可愛いんでエロ屋が目をつけるかもしれません。

・容疑者A

最後のネタですが、これは100%実在の人物なので取り扱い注意です。1991年7月に謗｢縺吶↑県でカップル殺人事件があったんですが、その容疑者としてカップルの知人数名が逮捕されました。一緒に海水浴に来ていた仲間だったんですが、結局この容疑者の内一人が犯行を自白したので捜査は終了しました。

自白した容疑者は裁判で終身刑を言い渡され服役したのですが、刑務所内で精神を病み、自殺しました。その後二年が経ってから、突然同県の会社員がカップルを殺害した真犯人として出頭してきたんです。暴走族上がりのチンピラで、過去に何度も暴力事件を起こしてる、絵に描いたような悪人でした。

警察も裁判所も慌てました。警察内部からリークもあり、終身刑になった容疑者の自白を取るに当たっては、担当刑事による脅迫と暴力があったとも暴露されました。でも、この顛末は報道されませんでした。

その年はこの国にとって忘れ得ぬ大事件が何度も起こった時節だったため、マスコミのキャパシティがオーバーしていたのです。真犯人は粛々と刑に服し、公権力の不祥事は忘れ去られました。ところで、真犯人は出頭した理由についてこう供述しています。『俺の身代わりになった女が夢に出るんだ』と。

自殺した容疑者の女が、黄色いワンピースを着て部屋に立っている。壁に向かい、こちらに背中を見せ、ただ立っている。そんな夢を毎晩見る。女が自殺した日から、1日も欠かさず。毎晩夢に見るのだと。出頭してからも、許されず、見続けているのだと。

殺害されたカップルと一緒に写っている容疑者の女の写真を添付します。確かに黄色いワンピースを着ていますが、アザバラノスクナの女とは顔が違います。向こうはアイドル顔ですが、こっちはふつうレベルの顔です。髪もロングですしね。

以上、3点を報告します。詳細資料は全て添付しましたが、何か追加で要る時はおっしゃってください。

※虎の子の探偵シリーズの方の原稿もお待ちしております！よろしくお願いします！

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小杉哲也様

桜田万作（さくらだばんさく）です

涅槃未知果を捜してください

お願いしますお願いします

神主の息子を見つけてしまいました

引っ越してなんかいませんでした

あのアパートはもう誰も住んでいなくて

部屋に勝手に上がってしまったんです

畳を裏返して天井板を剥がしました

そしたら落ちてきたんです

あの重箱

顔の皮まるごとと

手足の指全部が

ガビガビに乾いて詰めてありました

涅槃未知果を捜してください

黄色い女がいるんです

こっちに背中を向けて立ってるんです

寝て起きるたびに

近づいてきてます

もう同じ部屋にいます

涅槃未知果を捜してください

お願いしますお願いします