第21話 決闘を華麗に回避






 俺はもうこの学園は無理だ。この寮生活、初日から終わりすぎている。

 弁護士はどこ? ここ?


 俺は心の底から叫んだ。

 

「頼むから……普通のルームメイトをくれ……!」

 

 たしかに、石鹸枠みたいとは言った。

 部屋に入ったら姫とかヒロインがいて、そんで「キャー!」って怒鳴られて、ラッキースケベ。


 だけど、俺がこんな目に遭うとは思わないだろ!

 ラッキースケベにしても、鈍感主人公じゃないと天然ボケなんて無理だし、何とも言えない気持ちになるし、反応に困る!


 しかも、だ。

 ここからの流れはなんとなく分かる。俺は普通に刑務所行きか、それか、石鹸枠よろしく、バトルで。この場合、竹トンボバトルで全てを決めようと言われる可能性かのどちらかだ。

  

 竹トンボバトルで決めようと言われても、竹トンボで運命が決まるなんて嫌だから断るしかないし、どうするんだよ……。

 

 あと何で、俺は人間の裸……じゃなくて“裸の竹トンボ”を目撃してるんだ? それを言うなら、どの竹トンボも裸じゃないか!


 俺は頭を抱えてうめいた。

 

 お願いだから……もうこれ以上、ベタな展開に巻き込まないでくれ……俺はただ普通に静かに暮らしたいだけなんだぁ!


 刑務所に入れられるなら、この部屋に入れた容疑者の校長と、学園に入れた竹葉もどうにか道連れに出来ないだろうか。いや、割とマジに。

 


 

――――――――――――――――――――――――




「『プリンセス・バンブーリアン』の件で言い逃れなんてさせないわ、絶対に!」


「ああ、ソカモナ! ただ、俺よりも悪い奴がいるだろ? この部屋に俺達をセットした学園側だ!」


 俺も、また、この部屋に住むことになったことを賢明に伝えた。

 お互いに喚き合い、そして、三回目ぐらいで姫様もようやく少し理解してくれたのか聞き入れてくれた。

 

 それはそれとして、俺は許さないらしいので、代理人ありの決闘をすることになったが。

 しかし……大変だった。

 『走れ、タケロス』とかいう、走れメ〇スのパチモンの話を持ち出して、タケロスが愛棒の竹トンボ、"タケヌンティウス"を王様に人質として預ける代わりに一時解放されたように、俺も竹葉先生を生贄にした。

「俺の大切な恩師、竹葉先生に代わりに決闘に出て貰う。もし竹葉先生が負けたら、しょーじき! 俺の命より惜しいが、竹葉先生を煮るなり焼くなり好きにするといい!」、と伝えたら、「貴方を育てた先生を罰した方がより重い精神的な罰になるわね」、と納得してくれた。やったぜ。


 竹葉先生VSタケルレラ・タケトンボォォーの決闘ということだ。三日後にするらしい。勝手にやってろ。

 よーし、花〇院……いや、竹葉先生の魂を懸けるぜ。


 そうして妥協点を見つけた、俺と姫様は揃って校長室に直行することになった。


 姫様は凄まじく怒り狂ったままだ。

 タケトンボォォー王国と日本の外交問題に発展するんじゃないかと心配になるが、まあ、俺のこれからの未来に比べれば、大したことのない問題だ。


 俺は内心、この姫様のことを、『タケトンボ姫』と呼ぶことにした。



 

 タケトンボ姫が先制して、乗り込んでいった校長室で、事情を説明した。

 しかし、この校長、頭がおかしい。俺を竹トンボバトラーになれるとか言っていた時点で、目が節穴なのは分かっていたが、まさか、男女が同じ部屋でも「竹トンボに男女の境なんてありませんよ」なんて返してくるとは……。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」


 俺は慌てて手を挙げた。


「俺は嫌ですよ! 毎晩、こんな高慢ちきな、タケトンボ姫と顔を突き合わせるとか、悪夢でしかない! 面倒事を押し付けないでくださいよ!」


「なんですって!? あ、でもタケトンボ姫っていうのはいいわね……!」


「うるさいぞ、タケトンボ姫!」


「また、タケトンボ姫って言った! 何度聞いてもいい愛称なのが腹が立つわ!」

 

 校長の机をはさんで言い合いが始まる。

 タケトンボ姫が両手をバシンと机を打ちつけた。その一撃で机の上の書類が宙に舞った。


「校長、どうでもいい話はいいから!」

「そうよ! 早く解決策を!」


 俺と姫様の声が重なった瞬間、二人して気まずくなり、互いに顔を背けた。

 結論から言うと、俺達の必死の嘆願は叶った。校長は仕方なさそうに折れたのだ。


「ふむ。ではこうしましょう。隣同士の部屋に割り当てましょう。壁一枚隔てれば、同じ部屋よりは顔を突き合わせることもないでしょうし」


 俺と姫様は同時に「それでいい!」と答えた。


 こうして、俺たちは隣人となったのだが――これがまた、別の地獄の始まりだった。

 

 翌朝。俺が廊下を歩いていると、タケトンボ姫が舌打ちした。


「貴方の部屋の壁越しになんか変な音が伝わってきたわ。まるで竹が砕かれるような、不愉快極まりない音よ。あれ、やめてくれない?」


 もしかしなくても、昨日の夜に遊んだ竹トンボハンターの音だろう。

 だが、こっちにも文句はある。


「はあ!? そっちこそ、夜中に延々と『タケトンボォォー王国に栄光あれ〜♪』って歌ってただろ! おかげで一睡もできなかったんだぞ!」


「それは私の国の国歌よ! 私は王女としての責務を忘れぬため、毎晩斉唱しているのよ!」


「迷惑極まりない責務の心だな!」


 廊下でまた口論になる。

 そんな調子で、転入生である、俺とタケトンボ姫の学園生活はスタートした。

 同室にされなかっただけマシかもしれない。だが、隣同士という距離感でも酷い。


 歌声すべてが壁越しに聞こえてくるのだ。国立の寮なのに壁薄いのか?竹トンボの装飾や置物はいらないからお金は壁に使えよ。


「いい気にならないことね! 恩師とのお別れでもしておきなさい!」


 何か言っているが、離れたので聞き取れなかった。 

 こうして、竹トンボ学園の奇妙な姫との隣人生活が幕を開けたのだった。



  


 

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