第20話 ホビアニ✕石鹸枠モドキ
なんだかんだで日にちは過ぎ、国立竹トンボ学園に転校して、全校集会で生徒全員で、変な校歌を歌わされた。なんだったんだ、あの校歌は。恥ずかしさのあまり、とてもじゃないが歌えないので口パクでやり過ごしたんだけど……。
そうして全校集会も終わり、次に俺は重厚な扉の前に立っていた。
国立竹トンボ学園の校長室だ。
隣では、すべての元凶である竹葉先生がニコニコ顔で「さぁ、入りなさい」と促している。まるで処刑場に送り込む看守のようだ。
深呼吸を一つ。俺は観念して扉を開けた。
中は古めかしい応接間のような雰囲気で、壁一面に古い竹のレリーフやら、竹トンボの大会優勝盾やらが飾られている。
……異様だ。美術館というより、カルト宗教の総本山のようだ。
その奥の大きな竹の机と無駄に立派な竹の椅子に座っていたのは――30代後半? ぐらいの銀髪女性だった。
「よく来ましたね、山田くん」
校長は優しげに言った。だが俺には、その声が「逃げ場はないぞ」と訳された気分だった。
それにしても、校長といえばお爺さんとかのイメージが大きいんだけど、年功序列とかでは無いのかな。
どうせ例えば、竹トンボバトルか強いかどうかとか、そんなオチだろう。
「あの……俺、転入に納得とかはしていないんですけど」
とりあえず抗議してみる。が、返ってきたのは、にこやかな笑顔。
「竹葉さんから聞いています。君には……光るものがある、と」
「え? 俺……竹トンボにそんなに興味無いんですけど」
「そういう子こそ大物になるものです。伝説とは、無自覚の者の肩に降りる……期待していますよ」
「ガンバリマス……」
伝説とか降りなくていいんですけど。俺は平穏なスクールライフを望んでいるだけで。
校長は机の上に分厚い書類を置いた。
「今日から山田君は、国立竹トンボ学園の正式な生徒。沢山竹トンボを飛ばして、ライバルを作って、毎晩のように竹トンボ談義に花を咲かせて――学園生活を楽しんでくださいね」
「はい……」
竹葉先生は後ろで「うんうん」と感動している様子。俺だけが完全に置いてけぼりだ。
今日から、竹トンボ学園送りか。
俺の意思確認はゼロ。民主主義どこ行った。
さらに校長は引き出しから、鍵を取り出した。
それを両手で包むようにして俺の掌に置きながら、慈愛に満ちた顔で言う。
「さぁ、これは寮の部屋の鍵。隣の部屋にも来たばかりの子がいるので、挨拶してくださいね」
「ハイ……失礼シマス」
俺は曖昧に微笑んで受け答えした。
頭を下げて、校長室を出る。
一分ほど歩いたところで、竹葉先生が話し掛けてきた。
「山田、良かったじゃない。私の母校だし、寮生活だなんて青春そのものよ! どの竹トンボの部活に入る? シュート強化部? 竹トンボ磨き部? いや、竹トンボ設計部というのもありね!」
「いやいや、俺は帰宅部でゲームして青春してるタイプなんで!」
俺は頭を抱えた。
なぜ俺の人生は、こんな不可解な方向へ進んでいるのか。テイオーとかいうクズに目を付けられる前までは、平凡で、退屈で、でも安全だったのに。
まさか竹トンボのエリート学校に放り込まれるとは……。
多分、温度差の違いとかでハブられる予感しかしない。
おのれ、テイオー。全てアイツのせいだ!
竹葉先生はそんな俺の葛藤など一切無視して、語り続けた。
「何故、そんなにやる気が無いのか、理解に苦しむわ……。世界大会を制すれば、君の未来は輝かしいものになるわよ」
「竹トンボをやってる姿を世界中に見られるなんて恥ずかしいんでやりませんよ」
俺はため息をついて天井を見上げた。――シャンデリアの形まで竹トンボじゃねえか。狂ってやがる、この学園。
結局、俺は鍵を握りしめたまま、寮へと向かった。
そういえば、俺の生活する場所は家から寮に変わるけど、親は帰ってこないままだ。
なんか昔は見たことがあるけど、それからはお金が入ってくるだけだし、うちの家、相当闇深い説があるな。
――――――――――――――――――――――――――
俺は一人でそのまま寮へ向かう。
竹葉先生は、先生として竹トンボ学園に来たので、なんか会議があるとかでどっかに行った。
後で部屋に来るとか言っていたけど、来ないでほしい。寝転がりながらゲームでもやるかなぁ。
廊下をトコトコ歩く。
マンモス校なだけあって、寮はとてつもなく大きい。流石は国立。
中は迷路みたいで、廊下には竹細工のランプが等間隔にぶら下がっている。どこに行っても「竹」「竹」「竹」。ここは本当に学校か? 俺の常識を竹で叩き折ろうとしてるのか?
そして、鍵に刻まれた数字を頼りに三階まで上がり、俺の部屋を見つけた。
「……ふぅ、やっと着いた」
部屋の前で、ほっと息をついた。
歩き続け、肩も脚も重くなっている。
ようやく一息つける、そんな安堵が胸に広がった。
小さな達成感。そして鍵を開けて扉に手をかけて開ける。
「キャーー!!」
女の子の悲鳴が響いた。
俺の部屋に女の子がいる。
女の子は――なんか最近、見たことがある。そう、あのお笑いの世界大会に出ていたタケトンボォォー王国のお姫様、タケルレラ・タケトンボォォ―だった。
しかし、
冷静に内心で突っ込む。
……おかしくないか?
たしかに炎使いとか、姫とか、学園に転入とか、石鹸枠要素とか言ってたよ?
でも、なんで俺がまるで主人公みたいにラッキースケベポジションになっているんだ?
……なんで俺、初日から国際問題に巻き込まれてんの?
「覗きなんて変態よーーーッ!」
甲高い声が響く。
俺が冷静なのは理由がある。
俺がこの姫様の着替えでもしている最中に、部屋に入っていったように思うかもしれないが、そんな状況なら俺は固まって動けなくなっていただろう。
俺の人生オワタ、みたいな感じで。
だが、俺は覗きなんてやってない。
この姫様は着替え中ではなく、下着でもなんでも無い。
ラッキースケベは起きていない。
そう人間は服を着ている。
服を着ていないとしたら、そう、このお姫様が持っ
ている竹トンボだけだろう。
女の子が好きなことがある。
それこそが、お人形の着せ替えである。
可愛い服を着せて、楽しむという知識は俺でも知っていた。やったことはないし、良さは分からないが、そういう概念は知っている。
「許さない! スケベ! 変態! よくも、私の竹トンボ、『プリンセス・バンブーリアン』のお着替えの最中を覗いたわね!」
あ……ありのまま、今起こった事を話すぜ。
何を言っているのかわからねーと思うが、俺も分からねー! 分かりたくもねー!
頭がどうにかなりそうだ!
催眠でも掛かっている方がマシの地獄を見せられているかのようだった。
このお姫様はもっと恐ろしいものの片鱗を持っている!
このお姫様は今まさに――自分の竹トンボに服のようなものを着せかけていたのだ。
竹トンボは人形のように台座に立てられ、隣に小さな服があった。裸……いや、“竹丸出し状態”で無防備に立っていた。
「私の愛しき"プリンセス・バンブーリアン”の裸を覗くなんて……日本の武士道ってやつはどうしたのよ! 死刑。死罪よぉーーー!!」
姫は顔を真っ赤にして、竹トンボ――『プリンセス・バンブーリアン』を抱きしめた。
「嘘だ……この俺が竹トンボの裸?を見たことで、死刑になるなんて……」
姫様の(竹トンボの)裸を見た俺、死刑宣告されました。今更、元の学校に戻りたいと思っても、もう遅い!
――が始まるというのか。
いや、でも、竹トンボの裸?を見たぐらいで死刑にはならんやろ……。
多分。いや、どうなんだ、まさか、この世界ではあり得るというのか……?
「『プリンセス・バンブーリアン』の純潔を返しなさいよーー!」
「純潔って……竹トンボにそういう概念あるのか……?」
俺は頭を抱えた。
おかしい。完全におかしい。
竹トンボの服を着せ替え?
「とにかく! 貴方には責任を取ってもらうから!」
姫様はご立腹だ。
取り敢えず、これだけは言わせて貰おう。
「弁護士を呼んでくれ」
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