第7話 ホビアニ世界の日常






夏の暑さで良い感じに頭がおかしくなったので、更新再開します。


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 女の人と二人きり、それはデートと呼ぶのだろうか。

 今、俺は竹葉先生と二人きりだ。

 しかし、全然嬉しくない!!


 コレはデートとは名ばかりの地獄だ。

 竹トンボがちラブ女性とは付き合わない方がいいということが身に沁みて分かった。山田からの忠告だ。


 …………あれ、もしかして……俺……独身確定ですか……?

 

 嫌な未来を忘れるように俺は「んん」と咳払いをした。

 

 それはともかくとして……地獄の竹トンボ修行が始まってしまったのだ。

 竹トンボを一日に十時間以上やるとか……ほんま、頭おかしゅうなるで……!

 

 まず、午前中の竹トンボ修行は、最初俺が家に引き籠もり抵抗したが、まさかの警察の裏切りにより、時間通りに始まることとなった。

 結局、竹トンボ修行からは逃げられないことに変わりない。

 だが、竹葉先生に「俺は竹トンボ初心者なんで見本を見せて」と、言うと、竹葉先生は水を得た魚のように昼まで竹トンボを飛ばし続けていた。

 俺は見ているだけで済んだ。まぁ、これも大分キツかったが。実際にやるよりはマシだろう。

 

 昼食は、先生のよく分からん竹トンボの魅力談を聞き流しながら、食べた。唯一の癒しかもしれない。

 

 そして外は雨が降り始め、これから午後のショッピングモール内での修行が始まろうとしている。


 俺は昼食後、ちょっとトイレと呟いてトイレに行く振りをして脱走した。

 

 ショッピングモール内を俺は走った。


 ショッピングモール内には色々な人がいた。


 例えば――そう。 

 気弱そうな少年が、ヤンキーに囲まれていたりする。


「おいおいおい、いい竹トンボ持ってるじゃねぇか。そんな可愛い子、テメェには勿体ないねぇ。その竹トンボ、俺によこせや!」


 気弱な少年は震えながら必死に抵抗している。

 

「た、竹トンボだけは……許してください……お金でも何でも払いますから!」


「金だぁ?、そんなもんより、俺はその竹トンボが気に入ったんだヨ!」


 そして気弱そうな少年は抱えていた竹トンボに覆いかぶさって自ら身代わりとなった。


 ゲシッ!ゲシッ!とヤンキーの足が気弱そうな少年の背中を蹴りまくる。


 金銭の恐喝だったら、可哀想で通報していたかもしれないが、ヤンキーが竹トンボを要求しているところが、事件性をどうしても感じさせにくい。


 ヤンキーがカツアゲじゃなく、竹トンボを要求とは! 俺は思わず吹き出しそうになった。いや、彼等にとっては笑えるような内容ではないんだろう。

 でも、竹トンボを身を張って守る姿は、笑えてしょうがない。


「この竹トンボだけは許してください……!ボクも一目惚れだったんです! ボクが先に好きになったんです!」


「うるせえ、BSS(僕が先に好きだったのに)なんて知ったことかぁぁーー!」

 

 気弱そうな少年の必死な叫びが、ショッピングモールを木霊する。

 ……きっと誰かが助けてくれるだろう。


「竹トンボを取るなんて、そんな残酷な真似! 私が許さない……!」


 どこからか、そんな声が聞こえる。段々と迫ってきている。


 というか、竹葉先生の声だ。


 俺はその場を後にした。ヤンキー君が時間を稼いでくれることを祈って。



 

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「俺のものだ!」

「いや、俺のだ!」


 またもや、言い争う声が町中に響き渡る。

 ショッピングモールから少し出た時のことだった。


 二人の少年が言い争いをしている。しかし、先程とは違ってどちらかが劣勢とかでは無さそうだ。対等に喧嘩している。


 だが、そこに少女が現れた。少女は、一言。

 

「ふん、この子は私の宝物よ!私と将来(一緒に戦うこと)を誓い合った仲なんだから!」


 すると少女は二人の少年から件の竹トンボを奪うと、高く掲げて、まるで恋人を見つめるように言った。

 

「だって――私が一番、この竹トンボを愛してるんだから!」


 二人の少年も負けじと叫ぶ。

 

「オレだって本気だ!竹トンボは俺の相棒なんだ!」

「いや、俺のだ!」


 一つの竹トンボを巡って修羅場が起きていた。

 魔性の女――いや、魔性の竹トンボだ。


 俺はなんともいえない気持ちでその場を後にした。

 なんで……こいつら竹トンボで修羅場ってるんだろうと思いながら。

 



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 繁華街に出た。

 走っていると色々な店が見える。食べ物系の店以外は全部、竹トンボ関連の店なのが狂気を感じた。

 

 しかし、そんな中、ウラ寂れた店があった。

 この店には何度か来たことがある。この竹トンボのホビアニ世界で酷い目にあっている業界――ゲーム屋だ。

 店主もいい人だった。竹トンボ業界は厳しいので、奇を衒い、マイナーなゲーム業界に足を踏み入れた人だ。

 自身を竹トンボの敗北者と蔑み、「なんで俺は竹トンボ一筋に……信じ切ることが出来なかったんだろう」と影で嘆く、可哀想な人でもある。

 しかし、俺はそうは思わない。ハァハァ、敗北者? 取り消せよ今の言葉!と、店主さんを馬鹿にする人間全てに言いたいぐらい大切な人だった。

 

 どうか潰れないでくれ、と俺は祈った。ゲーム屋が無くなるなんて、耐えられない。


 竹葉先生からは逃げ切れただろうか。

 せっかくだし、ゲーム屋に顔を見せに行こうかな。常連客として潰さない為に、何か買ってあげないと……!

  

 展示されているショーケースを見ると、目に飛び込んできたのは、完全最新作と銘を打った、奇妙なゲームのパッケージだった。


 その名も――『竹トンボハンター』。


 大きな文字で書かれたタイトルの下には、鮮やかに描かれた巨大な竹トンボが、空高く舞い上がっている。


 ……モ〇ハンのパクリかな……?


 好奇心に駆られ、俺は手に取ってパッケージの裏面をじっくり読んだ。


「野生の竹トンボを狩れ――」

「多種多様な竹トンボが生息する広大なフィールドを駆け巡り、最強の竹トンボハンターを目指せ!」


 どうやら、これはモンスターのハンターならぬ竹トンボのハンターとして、竹トンボを狩るゲームらしい。


 ゲームの舞台は、四季折々の自然豊かな大地から、人工都市の高層ビル群まで。

 プレイヤーは竹トンボを討伐して、竹を剥ぎ取り、専用の竹トンボ狩猟装備を作製、身にまとい、さまざまな種類の竹トンボを追いかけるらしい。


 パッケージの説明によると、竹トンボごとに特性や生態が異なり、例えば――。


・「雷光竹トンボ」:羽根を高速回転させて雷のような音を轟かせる。

・「幻影竹トンボ」:高速移動し、姿を幻のように消す。

・「炎舞竹トンボ」:羽根の先が火花を散らしながら飛ぶ。


 プレイヤーはそれぞれの竹トンボの弱点を見極め、罠や特製ネットで捕獲しなければならないようだ。

 さらに装備にはカスタマイズ可能な竹トンボ捕獲道具や、竹トンボの力を借りる「竹精霊召喚」なども存在するらしい。そこはモ〇ハンとは違うのか。


「……なんだこれ!」と、俺は思わずパッケージを投げそうになった。

 そうだ。この世界のゲームは、何でも竹トンボ要素がついてくるのだ。


 ファ〇ナル・ファンタジーは、フ〇イナル・バンブーという名前で売られているし、内容は竹トンボが出てきて無茶苦茶だ。


 唯一? まだマシなのはマ〇オぐらいだ。

 まぁ、巨大化する毒キノコの代わりに、毒竹トンボに変わっているが。キャラはほとんど同じだ。ピ〇キオの名前がバッキオとかいう竹の英語名のバンブーと混じった感じで、ビジュアルが竹にされているけど、まだマシだろう。


 過去の英霊を召喚する某聖杯戦争もアニメ化しているが、偉人が皆、竹トンボを持っていて、竹トンボバトルのデスゲームにストーリーがチェンジされていて俺は泣いた。

 正義の味方になって、竹トンボが大きな争いに使われない為に戦うなんて言われても意味分からん。

 

 竹トンボハンター……略して、竹ハンか?

 竹ハンもせっかくだし、買おうかな。


 竹トンボはともかく、ハントするのは楽しそうだ。鬱憤晴らしにはなりそうではある。

 俺は財布を取り出し、店の中に入った。

 同じ竹トンボでも、現実よりもやっぱゲームだよ。ゲームしか勝たん!



 

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 作者の別作品『俺は勇者に向いていない〜主人公を譲ってあげたら世界が滅亡しかけてるんだが……〜』が、8月25日にMFブックス様から書籍化しました。

 良かったら、そちらも応援よろしくお願いします。



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