第6話(1) ナナの友だち

家に戻った白は満身創痍だった。

熱せられたアスファルトを素足で走り、真昼の太陽に焼かれて白い毛並みは汗でびっしょり濡れていた。

そうまでして、伝えたいことがあったのだ。


白の話を聞き、コットンとウシマルはいても立ってもいられない様子で家を飛び出した。

残ったのは、疲れて倒れこむ白とその体を支えるリンだけだった。

リンも行こうと思えば行けただろう。

だが、リンにはコットンたちと共に行く勇気がなかった。


「ナナちゃんがいじめられている……」

ナナの両親が生きていたころ、ナナが学校から泣いて帰ってきたことが何度かあった。

ナナは「何でもない」と言っていた。

あれは両親を安心させるためだったのか。


リンはナナの心境を思い、痛む胸を押さえた。

「大丈夫、きっとみんなが何とかしてくれる」

アズキはかしこい。コットンは優しい。ウシマルは力持ちだ。

普通のネコにはできなくても、できるネコが3匹集まれば、できないことなんてないも同然。


残されたリンは、自分に言い聞かせるように白の看病をはじめた。

自分にできることは、祈ることだけだと思っていた。

白が目を覚まして、彼の名を口にするまではーー……。


「羽山タカくんって君だよね?」

猫アレルギーのタカは、リンに口を抑えられ咳き込んだ。

「あ!ご、ごめん。つい必死で……」

「お前、あのネコたちの仲間か?」

タカがゼエゼエと呼吸しながら、息絶え絶えに聞いた。

リンはパッと顔を輝かせた。

「やっぱり、君なんだね!アズキと白を助けてくれた、頼もしい男の子」

「助けたわけじゃない」

タカに拒絶され、気弱なリンは少し怯んだ。

「でも……」

「俺はネコが苦手なんだ。悪いけど、離れてくれる?」

今度は強めの口調。

猛禽類のような鋭い目付きで睨まれる。だが、リンはタカを離さなかった。

「お願いがあるんだ。聞いてくれるまで、君を離すことはできない」

「はぁ?そんな勝手な…ゴホゴホ!」

タカの顔がだんだん赤くなる。アレルギーの症状なのかもしれない。

それでも、リンは動かなかった。

最後のチャンスだと思った。

ナナが友達を……嘘をつかなくていい相手を見つけられるチャンス。


コットンとウシマルが家を飛び出した時、白の話はまだ途中だった。

二人は「勉強」につぐナナのふたつ目の願い、「運動」を叶えようと学校に向かった。


だが、リンは起きた白からもうひとつの願いを聞いた。

「友達」……それが、ナナが叶えたい三つ目の願いだった。

それから、白は自分たちを助けてくれた男の子の話をしてくれた。

白が話し疲れて眠りについた時、リンは静かに決心した。

(僕がナナちゃんに友達を作る!)


「君に、ナナちゃんの友達になってほしいんだ!」

「ナナって、友川……湯島ナナ?なんで……モゴッ」

タカは再び口を塞がれると、真っ赤な顔で手足をバタつかせた。

「わかった、わかった!」

なんとかリンを体から引き剥がし、降参したと言うように両手を上げた。

「よかった……」

「わかったから、近づくな!」

リンに注意するタカの声は震え、目は涙目になっている。

獰猛な鳥が、いまや子犬のようだった。


「ただし条件がある」

顔を輝かせていたリンが、固まる。

「友達になる、条件……?」

「そうだ」

タカは腰をあげ、ナナたちがいるクラスの集団の方へと歩きだした。

その背中を不安げにリンが追う。


「あいつ、嘘つきだろ」

リンの足が止まる。タカがナナの本当の姿を見抜いていることに、リンは驚いたのだ。

「あいつが嘘をつかないなら、友達になってやる」

「……うん」

リンは小さくだが、深く頷いた。

それがどんなに難しい条件でも。

彼はリンが思い描いた、ナナの友達にぴったりの人物だった。

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