第4話(3) 嘘つきは誰?

授業が始まった。長い間学校を休んでいたナナは、内容が全く理解できずにうろたえた。

しかし小西木達にたんかを切った手前、ほかのクラスメイトに頼ることもできなかった。

小西木はニヤニヤしながら、そんなナナの様子を楽しんでいた。

嘘をついたナナをどうやって断罪してやろう、と。


先生が難しい問題を黒板に書き、クラス中が悩んで黙り込んだ時だった。

小西木の合図でお付きのチビが声を上げた。


「先生!友川さんがわかるって」

「友川さんじゃなくて、湯島さんね」

以前の苗字でナナを呼んだ生徒をたしなめながら、先生はナナの方を向く。

「湯島さん、この問題わかる?」

「あ、あの……」

もじもじと立ち上がったナナにクラス中の視線が集まる。

勉強でも運動でも勝つ!と言い張ったナナは、わかりませんと言い出せず黙り込んだ。


「しょうがないね。行くよ!」

その時、ロッカーの中に隠れていたあずきがロッカーの扉を開けた。

「ええ……」

付いていく勇気が出ず、ロッカーのすきまから白はその背中を見つめた。

みんなの視線がナナに集まっているのをいいことに、あずきは椅子の陰をジグザグに移動しながらナナの席に近づいた。

(あずき、あれだけ我慢していたのに……。あずきは厳しいけど、こういう時いちばん頼りなるんだよなぁ)

ナナが次に何を言うのか注目しているクラスメイト達はあずきに気づかない。

その間に、あずきはどんどんナナとの距離を詰めていく。


そんな中、猫の姿に絶句している人間がいた。あずきを見ているのではない。

彼の視線は、心配しすぎて体がロッカーの外へ出てきてしまった白をとらえていた。

「お前…」

「わっ」

白は声をかけられ、慌ててロッカーを閉じた。

沈黙の中突然声を発した人物、羽山タカに注目が集まった。

クラスメイトの注目を逃れたナナは、力が抜けてへなへなと椅子に座り込む。

「ナナ!ナナ!」

「あずき?」


「どうしたんですか?羽山くん」

ナナは先生の声にビクリとしたが、ナナではなく教室の後ろの方にいる羽山タカに声をかけたらしい。その隙に、あずきはナナの机の横にかけてある袋に潜り込んだ。

「何してるの?あずき」

「心配で見にきたんだよ」

「大丈夫だって言ったのに」

「どこが大丈夫なんだい!」

あずきが少しだけ大きな声で叱責したので、ナナが慌ててしーっと指を立てて制する。


「えーと、ロッカーが開きっぱなしだったので閉めました」

先生に問い詰められたタカは何でもないように飄々と答えた。

「まったく、ちなみにこの答えはわかりますか?」

タカが授業を聞いていたのか怪しんだ先生は、今度はタカに問題の答えを聞いた。

ナナはあずきに答えを教えてもらっている途中だったので、タカが当てられたことに気づいてない。

「299です」

羽山が無表情で淡々と、ナナが自信満々で嬉しそうに、その問題に答えたのは同時だった。

クラスメイト達がわき、二人は少し照れながら同時に席についた。


面白くないのは小西木だった。

「あいつ、ズルをしたんだ」

持っていた鉛筆のおしりをガジガジと噛む。

「勉強は誤魔化せても、運動が下手なのは誤魔化せないはずだ」

まだクラスメイト達が騒ぎ立てる教室で、小西木はひとり次の作戦を練っていた。


白はロッカーで爆発しそうな心臓を抑えていた。

「見られた。ナナ以外の人間に、オイラたちのことがバレちゃった」

白の心配をよそに、当のタカはムズムズする鼻を疑問に思いながら窓の外の晴れた空を見つめていた。

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