幕間
第29話 誰ガ為ノ休息
「はぁ。やっぱりここが一番落ち着くな」
イージスは退院後、すぐに基地に戻ってきた。
「すごーい! 地下にお家がある!」
「これは、驚いたな……」
アリアとアーサーを仲間に加えて。
「本当にアリアちゃんを連れてきてよかったのかしら」
ヴィオラの呟きに、イージスはソファに腰掛けながら
「仕方ないだろう。本人が『どうしてもついていく』って言うんだから」
コーヒーを一口、喉に流した。いつもの味だ。心地良い。
「増えたなぁ。始めは二人だったのに、今では五人か。旅立ちから、まだそんなに日は経っていないんだがなぁ〜」
ジョーカーが呟けば
「僕は君が最初に選ばれたことが気に食わないけどね」
アーサーはニッコリと笑いながら言う。少し、呪いが込められていそうな、不気味な笑みだ。
イージスの隣に、アリアがちょこんと座る。疲弊していたイージスは、無意識にアリアの頭を撫でていた。アリアは嬉しそうにそれを受け入れると、机に置いてあったクッキーに、手を伸ばす。
ヴィオラはそれを眺めながら、少しだけ、「いいな」と心の中でため息をついた。
「……なんだ? 君、小さな子どもに嫉妬しているのか?」
アーサーの一言に、ヴィオラは肩を跳ねる。
「なっ……そんなわけ……って、勝手に心の中覗かないでよ! 変態! プライバシーの侵害でしょ、これ! 最低! 最低ッ!」
こんなにもギャアギャアと叫んでいる仲、当のイージスはうつらうつらしている。アリアも、クッキーに夢中で聞いていないようだ。無論、ジョーカーも興味がないため聞いていない。
「浮かない顔をしていたら気になるだろう」
「だからって覗かないでよ!」
「いや、覗くとか覗かないとかじゃなくて……見えちゃうんだって」
「はぁ!?」
「これは本当」
揶揄っている様子はない。ヴィオラは一度息を整えると、アーサーをじっと睨む。アーサーはそれを見て苦笑すると
「僕の能力は、『意識を向けた先の人間の心が見える』っていうものだ。ちょっとでも興味を示せば、勝手に発動される。逆に言えば、人の心を見ていない時間がない。まぁ、自分の心に興味を移すこともできるから、普段はなるべくそうしているんだけど。ずっと何かしら見えているからね。うるさくて仕方ないよね。情報が多くて疲れる。あと友だちはできない。当然の如く」
改めて、自分の能力のことを話した。ヴィオラが少し下を向く。それを考えると、申し訳ないことを口にしてしまった。
「だけど、今はゆっくりできるよ。基本的に、イージスの心の中は見えないから」
アーサーの追加の一言に、ヴィオラはシンプルに疑問を持つ。アリアもそれを耳にして、首を傾げた。
「なんだろうな。例えるなら、宇宙みたいな。情報量は多いんだけど、全てが未知で、単純なようで複雑……だからこそ、不思議と『無』になっているんだ。ゼロではなく、無限の方ね。神秘的だし、どこか落ち着く。そんな感じ」
アーサーはイージスの方に目を向ける。本人は眠っているようだ。アーサーはイージスに目を向けて、落ち着いたのか、静かに微笑む。
「イージスお兄ちゃん、寝ちゃった」
アリアは小声でジョーカーに言う。
「あー、寝たか。ベッドに運ぶかねぇ」
ジョーカーはひょいとイージスを抱き上げるとそっと、ベッドへと彼を移動させた。それに、トコトコとついていくアリア。ジョーカーと共にイージスに布団をかけたり、子を寝かしつけるようにぽんぽんとイージスを叩いたりする姿は実に微笑ましいものである。
しかしそれをしばらく眺めていると、アリアまでうとうとし始め、遂には、イージスの横に顔を埋めて寝てしまった。
仕方なく、ジョーカーはアリアも布団の中に入れる。場所がなかったため、そのまま、眠るイージスの隣にアリアを添えていった。
キッチンに戻って夜食を探していれば、足元をトロワが転がる。
「お。どうした、トロワ」
ジョーカーが聞けば、トロワは人型になり
「ベッドを増設しますか?」
ヴィオラとアーサーの方を指差して問う。確かに、人が増えたため、ベッドの数が足りない。流石に、成人した三人が、一人用ベッド一つで共に寝るのは厳しいだろう。
「え、できるの?」
「アグネス様が二段ベッドに憧れた結果、あの二つのベッドを二段にすることが可能になっています。御二方が上を体験できるように、合計、四つの寝床を得ることができます」
「ほーん。んじゃ、頼もうかな」
「かしこまりました」
「あ、待て」
頼みかけて、ジョーカーはストップをかける。
「イージスとアリアが寝ているんだ。新たに、二段ベッド一つだけ作ってくれや。二人が寝ているベッドは、そのままにしておいてくれ」
「かしこまりました。……しかし、その場合、ジョーカー様は如何されますか?」
「俺はソファで十分だ。床でも寝れる」
ジョーカーはそう言うと、改めて冷蔵庫を漁り始める。
トロワは少し寂しそうな顔をしたが、すぐに与えられた仕事に取り掛かった。
彼が物色を終えて、おつまみとコーヒーを手に戻ってくると、見事にヴィオラとアーサーが寝落ちしていた。それをトロワがベッドに運搬している。自分たちより小さい子に運ばれる、成人二人。なんとも滑稽な様子である。
「ガキだねぇ〜」
ジョーカーはおつまみを口に放り込みながら、そんなことを口にした。どこか、楽しそうでもある。
トロワは仕事を終えると、球体に戻った。
「おつかれさん」
イージスたちに言ったのか、或いは、トロワに言ったのかはわからない。両方かもしれない。しかし、それを聞いたトロワは、どことなく、幸せを感じるのであった。
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