鉄屑のユートピア
古橋レオン
初任務
第1話
雨が止んだ。
眼下に広がる雲海が晴れ始めた降下デッキにスピーカーの声が鳴り響く。
「こちら中央管制室。天候状況の好転を確認。第42小隊の降下を許可します。直ちに降下準備に入ってください。繰り返します。こちら...」
「ったく、こんな何時間も待たされたんじゃあ、任務前に疲れ切っちまうってのに」
ベンチから気怠そうに立ち上がったジェイドが不機嫌そうに唸る。
「でも待った甲斐があったじゃないですか、隊長。ちゃんと降下させてもらえるんですから。それに、これでマコト君の初任務も延期なしに今日できるんですし」
ジェイドの愚痴にアンジェロが防護スーツのファスナーを上げながら答える。
「それはそうだな。どうだマコト、緊張してっか?」
急な問いかけにマコトはビクッとした。
「は、はいっ、少し、緊張してます」
「そんなにビビんな、大したことねぇよ」
豪快に笑うと、ジェイドはマコトの肩をバンバン叩いた。
「それにお前まだ高校生なんだろ?この歳でライセンスが取れてるってことは、あたしやコイツよりも出来が良いって証拠じゃんよ」
隣で頷いているアンジェロを親指で指差しながらジェイドが言う。
「そうそう、こうやって普通の人よりも一足先にスチールハンターの一員になれてるってことは、教官の皆さんから、君は絶対大丈夫だから行って来いって信頼してもらえてるってことだから、自信持って」
マコトの顔がパッと明るくなる。
「あ、ありがとうございます!俺、頑張ります!」
不安が消え、先程よりも少し凛としたマコトの表情に、ジェイドが嬉しそうに目を細める。
「よし、じゃあさっさと今日の仕事、片付けてやろうじゃないの」
そう言うと、ジェイドは二人の方に向き直り、命令を下した。
「第42小隊、降下準備!」
マコトとアンジェロ、二人の声が重なる。
「了解!」
遠い未来。
人類は地上とそこに築き上げた文明の全てを捨て、雲の上に建設した自律型浮遊都市<ユートピア>に移り住んだ。太陽と星々の光を動力源に、この巨大な空飛ぶ街は人類に必要なものを全て与えてみせた。
食料を、衣服を、居場所を、秩序を、安寧を...
人々はあらゆる面で満ち足りた生活を送っていた。
だがただ一つ、この街が自力では生み出せないものがあった。
鉄だ。
増えゆく人口、設備の老朽化... これらを乗り越えるための都市の修繕、増築のためにはどうしてもどこかから鉄を供給する必要があったのだ。
これは、故郷のため、夢のため、そして世界の真実を知るため、地上に降り旧文明の鉄屑を集める者:スチールハンターとなることを選んだ少年の物語である...
鉄屑のユートピア 古橋レオン @ACE008-N
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