第22話 両斧の少女

「ここですか……?」


「そうだ。私の剣はここの店主に打ってもらったものだ」


 ボロボロの外観は廃屋と言われても差し支えないほどのものだ。


 扉を開けると金具が音を響かせた。


 不気味な店内へ足を踏み入れようとしたその時、中から人が飛び出してきた。


「斧っ!?」


「下がれ少年」


 突然現れた人物の手には大きな両刃の斧があり、力の限り振りかぶったまま、こちらへ向かって突進してきた。


 上から下に、大胆に振り下ろされた強力な一撃はしかし、剣を抜いたオルンさんによって止められた。


 武器の持ち主にそぐわない幼い少女の姿をしている。


「誰だお前?なぜこの店の中から出てきた」


「侵入者は誰であろうと排除するだけだよ!」


 少女の身の丈ほどの斧を器用に振り回してオルンさんに更なる攻撃を繰り出している。


 防戦一方の彼女だが、その表情は余裕のものだった。


 数多の攻撃をひっきりなしに繰り出す少女に対して、彼女は一切反撃しようとはしない。


「あっ……」


 二人の攻防を眺めていると、店の奥からまた一人、老夫が出てきた。


「───その手をとめろミワ!」


 斧をぶん回している少女に向かって、そう大きく叫んだ。


「おじいちゃんっ!?出てきちゃダメじゃん!中入っててよ危ないから!」


「其奴はワシの知り合いじゃ。斧をとめろ」


「えっ、そうなの……?」


 オルンさんへの猛攻の手が止まり、ドスンと斧が地面に落とされた。


 いったいどれだけ重いんだよ。


「久しぶりだな、店主」




 店の中には、多くの剣が置かれていた。


「随分と好戦的な少女のようだが、何者だ?」


「あれはワシの孫じゃ」


「孫……?店主に孫がいたのか」


「見ての通り、ワシはもう動ける体ではない。だから用心棒として孫と一緒に暮らしておる。つい今しがたのことだが、どうもあの子は手が出てしまうんじゃ」


 この店にくる客を誰彼構わず攻撃して撃退してしまうという。


「乱暴極まりないな。あれでは用心棒どころか、鎖を切り離された狂犬だ」


「あの子を鎖で繋げと言うのか……」


 オルンさんとじいさんの会話を側で見ている限り、昔からの仲といった感じだ。


 ちなみにじいさんの孫であるという斧の少女は、どこかへ姿を消していった。


「それで、今日は何しに来たんだ?」


「この少年が使う剣を探しに来たんだ。何か良いものはないか」


「ふむ……もしやとは思うが、お主学院に入るつもりか?」


 顔を凝視された後に、突然そう言われた。


 コクリと首を縦に振ると、なぜか嬉しそうな表情を見せた。


「そうかそうか。ならばもし入れたのならワシの孫と仲良くしてやってくれ。あいつはあの年で友達が一人もおらんくてな、ワシは心配だったのだ」


 まさかの斧少女と同年代ということが分かった。


 さらに同じ王立学院の入学試験を受けるらしい。


「それなら私が気にかけておいてやる。あの少女では、少年には少しばかり荷が重すぎる」


 オルンさんのいう通り、俺はあの斧に体を真っ二つにされて終わりだ。


「………まさかお前さんも、入学するのか?」


「もちろんだ」


 驚愕といった表情を浮かべるじいさん。


「いいから早く少年の剣を選んでほしいんだ。身の丈にあったちょうど良いのが欲しい」


「……お前さんの知り合いというのなら、ワシが最上級のものを打ってやるが」


「そんなものはいらない。まだまだ二流なんだ、とりあえずは入学試験で耐えられる程度のもので構わない」


 すると、じいさんがおもむろにこちらへ近寄ってきた。


「さぞかし辛い稽古でもつけられているんじゃろ。普通は誰しもが一番いい剣を使いたいに決まっておるよな」


「あ……いや俺は別に……ははっ……」


 結構良い人だこのじいさん。


「まぁこれなんかはどうじゃ?」


 そう言って、大樽に入っていた一本の剣を取ってみせた。


「前にワシが打った物の中では出来の良い剣だ。そこらの武器屋に売られている逸品と謳われているものよりはよっぽど質がいいと言える」


 見た目は至ってシンプル、特に装飾はされていない。


 どちらかというと俺の好みだ。


「時が経って少し廃れているが、こんなものは外を磨けばどうとでもなる。ほれ、持ってみろ」


 じいさんから手渡されて握ってみれば、驚きの軽さをしていた。


「軽すぎず重すぎずで作った剣だ。上級者には物足りなく感じるだろうが、お前さんくらいならばちょうどいいはずだ。どうだ、気に入ったか」


「……はい、すごい手に馴染みます。それに振り回しやすい」


「それは良かった。ではワシは磨いてくる。少し待っておれ」


「あっ、はい……ありがとうございます」


 剣を持って裏へ行ってしまった。


 流れるように即決してしまったが、本当に相性よく感じた。


「今でこそおいぼれジジイの姿だが、あれでもまだ少年よりは強いぞ」


「えっ、マジですか……?」


「あぁ、だから怒らせるようなことはしない方がいい」


 あのじいさんが怒る姿が想像できないが、一応は肝に銘じておこう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る