メインヒロインに惨敗した悪役令嬢を慰めたらデレた

はるのはるか

第1話 ゲームの世界に転移した

 ライトノベルのストーリー展開は実に素早く読んでいて飽きないのがとてもいいところだ。


 無駄に話を伸ばすことなくとっとと起承転結を経て進んでいってくれる。


 例えばそう、異世界転生モノや転移といった物語では主人公が異世界へ行き、新たな人生で成長していく。


 その過程でいくつもの起承転結がおきていては、長ったらしくも思ってしまうところがスムーズにストーリーが展開することで飽きずに読むことができる。


 今俺がここで死んで転生するか、もしくは突然異世界へ転移した場合には、早速とばかりに出来事が襲い掛かってくることだろう。


 ラノベを読んでいれば一度は自分もこういう体験をしてみたいなと思ってしまう。


 こう……パッと気が付いた瞬間に目の前が真っ白い光に包まれて直後には異なる世界の見知らぬ場所に……───


「……これが異世界転移か」


 先ほどまで教室にいたはずなのに、今俺がいるのは大きな広場だ。


 西洋に似た街並みに、大勢の人々が行き交う光景は、俺にとってはまさに異世界へ来たと実感するには十分だ。


「ふんっふん~さぁてどこに行こうかな~」


 待つより向かうべし、どんなストーリー展開が待っているのやら。


 人ごみに紛れながら歩き進めていくとさらに人の数が増えているような気がした。


「うわっぷ!?」


 突然目の前に立ちはだかる大きな壁にぶつかり思わず変な声をあげてしまった。


「あぁ……すまねぇな、兄ちゃん」


 壁と思しきものは巨体の大男の背中だった。


 振り向かれたときは全身がビクンと震えてしまった。


 いかんいかん、人混みは初めから俺の苦手とする場面だ。


 路地につながる分かれ道へ逃げ込み、息苦しさが消えた。


 そのまま路地裏へ歩みを進めて出来事に遭遇する機会をうかがう。


 なんだか野生のモンスターと遭遇して経験値を稼ぐ、みたいなことをしているなと今思った。


「人の声が聞こえる……」


 聞こえる方角を頼りに路地裏を突き進んでいくと、数人が言い争っている場面に遭遇した。


 って……この人たち武装してるじゃん!?


 武器をぶらさげて、身体には甲冑のようなもので一部分を覆っている。


 ピコンッ


 突然そんな効果音とともに目の前に半透明のパネルが表示された。


 そこには、


『冒険者パーティ「闇夜のハイエナ」が身内でもめ事を起こしています。クエスト内で発生したクリア報酬の分配について、メンバーの一人が納得できずにリーダーへ抗議している最中です。』


 そう書かれていた。


 まるでゲームのように、今の目の前の状況を細かく解説しているようだった。


「──今回のクエストでは俺が一番活躍していた。敵のボスを討ったのも俺だ。だというのに、どうして報酬を均等に山分けしなきゃいけないんだよ!?」


「聞いてくれエド、これはパーティの決め事だ」


「そんなことで納得できるかよ!そこの女はチキって一回も攻撃をしてなかったぜ。せめてその女抜きで報酬を山分けするべきだ」


「……君の言いたいことはもっともだ、エド。だけど、これはパーティ結成の日にみんなで決めたことじゃないか、報酬は必ず全員で山分けすると。確かに今回彼女は怯えてずっと後方にいたが、次からはきっと活躍してくれるはずだ」


「俺は次の話なんかしてねぇ、今の話をしてるんだ!こんなの俺は納得できねぇぞ!」


 大きく叫んだメンバーの男は、腰から短剣を引き抜き一目散に女へと切りかかった。


 だが男の振り切った短剣は空振りに終わり、リーダーの手に持っている剣が男の腹奥へと突き刺さっていた。


「なっ………ク、クソ…………が」


 リーダーのたった一刺しで男はガクンと身体から力が抜け、死んでしまった。


 衝撃の現場を目撃し、俺は思わず驚きの声を漏らしてしまった。


 だが気づかれた様子はなく、なおも衝撃は続いた。


「かっ……は…………」


 メンバーの男から責められていた女までも、リーダーによって剣で心臓を突き刺された。


「ま、待ってくれ……俺はあんたの意見に従う。なにも反論はな──…」


「悪いが死んでくれ」


 何もしていない、ただ状況を見守っていただけのもう一人のメンバーすらも切り捨てられてしまった。


 さわやかなパーティリーダーと思っていたが、その実恐ろしい殺人鬼だった。


「………そこの少年、きみも死にたいか?」


「……!?」


 こちらへ振り向いて声をかけられた瞬間、それだけで心臓が止まりかけた。


「……できれば見逃してもらいたいんですけど」


 異世界へきていきなりこんな所で死にたくはない。


 ただ、パーティメンバーを一人残らず切り捨てたのを見るに、この人が目撃者である俺を逃がしてくれるとは思わない。


「………いいよ、きみは行きな。罪なき人を殺す趣味はない」


「えっ……これを見たのに、俺を殺さないんですか……?」


「──アッハハハハハ!きみにはが相当恐ろしい人間に見えているみたいだ。一つ誤解をしているようだから補足しておくと、このパーティはもともと処刑対象の極悪冒険者パーティだったのさ。そこにわたしはパーティリーダーとして潜入していただけだ。……と、まぁこれ以上は話すわけにはいかないな。ほら、さっさと行きな少年。この先を行けばすぐにでも路地から出られる」


 半ば無理やりこの場から去るよう腕を引っ張られ背中を押された。


 去り際、パーティの元リーダーに呼び止められた。


「きみとは、またすぐにどこかで会いそうだ」


「……俺はあまり会いたくないですけどね」


 七割の本音を吐き捨てて言われた通りの道を歩いていくと、本当に路地から出られた。


 しかし、何かしら出来事に遭遇したいとは言ったがまさか殺人現場に遭遇する羽目になるとは思わなかった。


 路地を出た大通りでは、なにやらパレードのようなものが催されていた。


 ピコンッ


『ルージュリア王国第一王子とその婚約者であるメインヒロインの侯爵令嬢によるパレードです。しかしメインヒロインの恋敵である公爵令嬢がこのパレードを邪魔するべく企んでいます』

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