第27話 対ドゥーガルガン戦闘
レギュレーション:236フラッグ戦——二本先取で勝利
勝たなければ認めて貰えない。
完璧でなければ誰も振り向いてくれない。
灰原高校236部主将『鴻巣 留美子』は落ちこぼれという言葉の為にあるような人生を送っていた。
出来の良い姉に、彼女を溺愛する両親。勉強も部活も全て姉に劣り、彼女はまるでゴミを見るような目を向けられ蔑まされ続けていた。
少しでも輝こうとした。誰でも良いから私を見てくれる人が欲しかった。
だからこの銃は彼女の元に現れたのかも知れない。
ドゥーガルガン——少女の姿に変身する銃。そして、ドゥーガルガンを持つマスター同士が戦うサヴァイブファイトは、まさに両親や姉の生き方をなぞるようなルールだった。
勝たなければ生きることを奪われる。留美子はそのスリルと一生懸命になる奴らを壊す楽しさ、何より侮蔑だったのが奇異や恐怖に変わる両親や姉の目線が愉快でたまらなかった。
勝たなければ認めて貰えない——勝たなければ生きることができない。
どんな手を使っても——
「さぁて始めようぜ……生命を賭けた戦争を」
「る、留美子ちゃん……」
「あぁ? なんか用かよマサダ」
「その、正々堂々、頑張ろうね」
気弱で腰の低い銃——マサダは留美子の機嫌を伺うように恐る恐る言った。
「正々堂々……はははっ。ばっかじゃないの」
「ルールは、守らないと」
「お前、また痛めつけられたいのか?」
「ひぃ……ごめんなさい。ごめんなさい!」
「どんな手を使っても、勝ちゃ良いんだ。口答えすんなクソ芋女が」
罵倒して不敵にほくそ笑んだ留美子。鬱蒼とした森林フィールドはそんな彼女の悪巧みを影に隠す。
『EOS予選一回戦。第一試合を始めます』
カウントダウン。ゼロの合図で両チームのアタッカーがウッドチップを蹴り上げ、戦闘は開始された。
試合開始と同時に先輩達が前線に出て、敵と交戦を開始する。
一歩後ろで見守りながら、最適な狙撃位置に移動する悠里。点在する草陰と同化して前線をすり抜けてきた敵を待ち伏せている。
「中央は優勢だ。悠里は裏を抜けてきた連中を警戒」
「了解です」
「フラッグへ撃ち込むぞ! 射線に被るなよ!」
中央の前線は先輩達が押している。昨年下した相手なだけあって互いの実力差は歴然だ。
これは仕事が回ってこないな。戦闘がないのは退屈だが次の対戦相手に期待するとしよう。
あまりに拍子抜けな相手だと悟り、悠里は完全に気を抜きそうになる。だが戦場の勢いは一気に覆った。
「屈るぞ悠里!」
「どこから?!」
「正面!」
数分もしないうちに敵が来る。交戦距離は50メートル程で、236では近からず遠からずと言った所。
しかし先輩達が進軍してから一分もしない。ヒットコールがないとなるとこいつらは。
「裏どり連中か。仕留めるぞ」
すかさず照準を取って射撃。
一人は虚を突かれたようで服に命中した弾の感触に飛び上がる。もう遅い。
ボルトを手早く引いて次の目標を狙う。だが、
「見えてんだよ! 芋スナがよぉ!」
「避けろ! 奴のはマズい!」
言うが先か、悠里は途方からしたモーター音に身を翻す。
「捉えてるか」
「いや分からん。銃口は確かに感じた。だが肝心な射者の姿がない」
「そんなはずは」
「聞こえてんだろそこのスナイパー! あぁ、見えてても答えてはくんねぇか!」
フラッグの方角。ラプアの眼でも捉えられない敵。
「まさか、フラッグの奴が」
「十中八九、ほぼ確実と言って良い」
バリケードから銃だけを出して撃つ、通称『ブラインドショット』。サバゲーや236で禁止されている行為だ。
反則行為はドローンが検知して大会運営が選手に退場警告を発する。退場しなければそのチームは反則負けになるはずだ。
しかしその判定が成される様子が一切ない。
だが退場されては——悠里はふっと笑って見せて言い放つ。
「なら……丁度良い」
「やる気か?」とラプア。自信に満ちた顔で悠里は頷く。
ギリースーツを脱ぎ捨てて、フラッグの防衛という任を無視して前線に上がる。
先輩達は既に全滅していた。狙撃手というポジションにいると孤独というのが良く似合うのだとつくづく思う。
そんな邪念を振り払うかのように悠里は一気にフラッグまで距離を詰めた。
フラッグからの射撃はない——行けるか?
不意打ちを警戒しながらにじり寄った。
「あはははは! 隠れても無駄無駄!」
弾幕。オーバーアクションで避けながら、重い装備をバージ。身軽になって一気に距離を縮めに行く。
「悠里! 背後から二人!」
「位置は?!」
「七時と五時方向、距離40!」
「二人とも潰す!」
振り返りすかさず二発撃ち込むと、二つともヒットコールが成される。
だがそうして生まれた死角をフラッグの留美子は見逃さなかった。
「背中がガラ空きだよ!」
「しまった!」
白いBB弾の弾道が横目に映った。身を翻そうと足を意図的に崩したが、避けるタイミングが失したから間に合わない——直後。
ビィィィィ!
自陣側のフラッグがけたたましいブザーを響かせた。ゴーグルのバイザーには敵がフラッグを取ったことが示され、身体に受けた弾丸のヒット判定は全てが無効になった。
「チッやり損ねたか」
舌打ちした留美子。悠里は間一髪の所で命拾いをしたと、深い溜息をついた。
「次の試合で確実に仕留めてあげる。今の内に遺書でも書いておくんだね」
「ブラインドショットまでして勝ちたいか?」
「言いがかりは止しなよ見苦しい」
悠里の瞳は確かにその場面を目撃していた。だが選手である以上審判AIの判定が絶対で、いくら喚いても覆すことはできない。
「審判だって違反行為はなかったと判定している。正々堂々戦ったことになってるんだよ。来年頑張ればいいじゃないか」
もどかしさに苛立ち。こんな奴に……こんな奴に負けたくない。冷静さを欠かないようにするので精一杯だった。
「まぁ君には次があればだがね。ハハハハ!」
醜悪な笑みで留美子の嘲笑が響き渡る。
お前も俺から大切な物を奪っていこうとする。リコも俺の命も、全部。
ならお前の命を奪っても文句はないな。
怒りと興奮が綯い交ぜになった感情を伝えるようにラプアを握りしめていた。
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