第15話 問題は前に出てる奴
現役生と新入生の差は歴然。未経験者共々、中学時代の経験者ですら絡めとられるように倒されていた。
しかしそんな理不尽な条件でも引き分けまで持ち越せた。前線を張っていた咲良が手練れ相手に善戦して、援護が完全に途絶えた後もゲーム終了まで一度も死なずに生き延びた。
一方で悠里は——。
「まず——反省点だが、もはや論ずるまでもないよな?」
「はい。もう無闇に突っ込みません」
部長の涼から直々に呼び出され、部室にて様々な角度から撮影されたやられ様を前に説教を受けていた。
「度胸は百点満点だ。しかし狙撃銃で突撃は無茶が過ぎる。何か策はあったのか」
「策だなんて大それたものじゃありませんよ。一対一に持ち込めれば確実に勝てたと考えていたから近接戦に持ち込んだだけです」
「自信に見合った撃ち合いのセンスは感じた。だが実際の相手は三人だった」
待ち構えていた相手は涼だけではなかった。櫓から踏み出した瞬間、彼女を含めた先輩三人の包囲に遭ってしまい、反撃も虚しくヒットを取られてしまったのだった。
一対多の状況で狙撃手が生存する確率など皆無に近い。真っ先に離脱するべき所、咲良の援護を最優先にしたが故に起こった必然だった。
「あそこで私と近接戦をやろうとする意図がよく分からない。何故踏み切ったんだ?」
腑に落ちる答えではなかったようで涼は訝しんだ。
「片岡さんの援護を優先しました」
「なるほど。既に狙撃手に見つかっていたが、それも対処するつもりだったのか?」
「正直言えば、狙撃戦で負けるつもりはなかったです。だから安土先輩さえ抑えられれば、形勢は変わっていました」
生意気にも聞こえるが、涼には説得力ある言葉だった。
キルスコアを見ても悠里と咲良がダントツで多い。部の現役部員を圧倒的できる実力を持っているのは確かだ。
だがこの二人には連携を取ろうという意思がまるでない。
「味方を使おうとは思わなかったのか?」
「他の味方は戦線を維持するので手一杯でしたし、俺が前線の敵を減らさなければもっと大差がついて負けていたと思います」
「なるほど。今の答えで色々分かったよ」
涼は得心が行って表情を晴らした。
「新井、君は何でも一人でやろうとする癖がある。実力がある分、やれることの幅が広い。長所だがそのキャパには限界がある」
「もっと仲間を頼れということですか?」
「理解が早くて助かる。もっと頼っていい。確かに頼れる部分は少ないかも知れないけど、一人でも加勢していたら状況は変わってたはずだ」
悠里もなぜ呼ばれたのか、ここに来てようやく理解した。
仲間を頼る。頭の片隅にでもなかった自分自身に愛想が尽きそうになった。
そんな基本的な事すら俺は忘れていたのか、と。だが悔しさは強さの糧になることを意識すれば霧散して平静を保てた。
「アドバイス、ありがとうございます」
一人で背負わなくていい。涼の助言で心が軽くなって感謝を口にした。
「次に活かせよ。君は強い。遠くないうち、君と片岡君は実戦に出てもらうことになる」
「遠くないうちに実戦ってえぇ?! 試合にですか?!」
「そう驚くことでもないだろう。ハッキリ言って単騎決戦でお前達二人に敵う奴はこの部にいない。だからこそ、課題を次々と乗り越えられると信じている。自信持てよ。一番近いとこだとEOS——エスケープオブサバイバーかな。バトルロワイヤル形式の全国大会。その予選だ」
「エスケープオブサバイバー……」
その名前に心が震えた。
EOSとは236の高校全国大会でも規模、注目度が最も高い。街を一つ貸し切って予選を勝ち上がってきた高校236部が一挙に放たれて鎬を削る。
最後に生き残ったチームが優勝のバトルロワイヤル方式の大会で、毎年放送されるテレビ中継に釘付けになりながら悠里もいつかここでサバゲーがしたいという憧れはあった。
「焦らずにやれよ。まだ時間はあるからな」
「はい! 頑張ります!」
晴れやかにはにかんで一礼すると、悠里は忙しなく練習へと戻っていった。
「ま、問題は前に出てる奴なんだけど」
清々しそうな様子に安堵でため息が漏れた涼だったが、更に際立つ問題に天井を仰いだ。
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