第14話 涼のミニミ

 城西高校236部に新入生が加わって二週間。


 茜色に染まりつつある太陽から隔絶された地下フィールドにエアソフトガンの銃声と覇気のある部員たちの声が響いていた。


 ルールは復活無限のカウンター戦。ヒットの回数を電子カウンターで計測し、より多く相手を倒した方が勝利するというルールでチームは現役の236部員対新入生の紅白戦。


 赤と黄のマーカーを巻いた二チームが左右の広い大通りで激しい銃撃戦を繰り広げていた。


 一方で中央のメインストリートはというと。


「片岡さん出過ぎだ!」


 そこは咲良の独壇場であった。


 迫ってくる先輩を容赦なくライフルで仕留めて拠点へ送り返していく。全身真っ黒の装備は黒装束の死神に見えてならない。


 ただ独断専行で左右の味方より明らかに突出している。敵前線をかき乱していると言えば聞えはいいが、周りが見えていないし、人数をかけて挟撃されれば恐らく中央は総崩れを起こす。


 ——それを見越して櫓に陣取って彼女の背中を視線で追い掛けてはいるのだが、援護するこっちの都合や味方の射線なんかお構いなしにCQBエリアを跳ね回っていた。


 案の定、終盤に集中力の切れた左右の前線が崩れて押され始め、咲良は包囲されてしまう。


 退路を作らなければやられる。使命感に狩られて背後を取ろうとする先輩を片っ端から倒していく。


「11時方向から狙撃」


 同一地点からの狙撃は流石に気づかれた。ラプアを担いですぐに遮蔽へ隠れて離脱を準備する。


 だが今度は別方向からの射撃がべニアを叩く。


「こっちの離脱も織り込み済みって訳か」


 右から熾烈なまでにライトマシンガンで撃ち込まれる。


「くぅー流石に安土先輩のミニミ相手に分が悪い」


 反撃しようにも身を晒せばたちまち蜂の巣になる。援護を失った咲良は文字通りの孤立無援だ。


「リコ、バレル交換。01ミリので近接戦闘に移るよ」

「正気か? 射撃サイクル的に相手はライトマシンガンだぞ」

「ここで死んだら咲良が孤立する。それだけは避けたい」


 背中のバックパックから換装用のバレルを取って手際よくラプアに実装する。


 電動ガン『ミニミ軽機関銃』の装弾数は驚異の二千発を誇り、ボックスマガジン底部のスイッチを入れるだけでモーターがBB弾を巻き上げて薬室へと送る。


 永遠に感じるその連打を打ち破るには、近距離で限界初速の弾を叩き込む他に思いつかない。


 隠密行動を基本とし、遠距離から敵を仕留める狙撃手としてはあるまじき作戦。だが位置が露呈してしまった以上、ここに留まっていても咲良同様に包囲される。


「それじゃ、やるよ」

「承知した」


 櫓の階段を一段飛ばしで降りて、悠里は機関銃に身を晒したのだった。

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