第7話 才女は脆い

「悪いけどあんたと組むのは今日限りにしてほしいの」


 セーフティーエリアで唐突に言われた一言に咲良は眼を眇めた。


「えっと、何かの冗談よね?」

「本気よ……私じゃ足手まといでしょ」

「そんなことないよ。いつも最適なタイミングで援護くれるし」


 目の前の少女の言葉を否定しようと必死に首を横へ振った。


 実際に彼女が足手まといと感じたことなんて一度もない。むしろ無茶苦茶な私の動きに追随して、援護が欲しい時に来る。敵の包囲されても彼女の一撃が突破口を開いたことだってあった。


「ごめん。けど何かした心当たりがないの。なんか悪いことしたなら謝るよ」


 傷つくことを言った心当たりはない。俯きながら震える肩に手を置いたとき、少女はそれを乱暴に振り払って涙目で訴える。


「所詮、私は貴方の黒子よ! 訓練所でもそうだった……才能を見初められて、同期の私は貴女のサポートばかりを押し付けられた。あいつとは違う、お前はこっちが向いてるって! 自分中心のサバゲーはさぞ気持ちよかったでしょうね!」

「なんのこと? 意味が」


 分からない。それを口に出す暇さえ与えられず、


「その鈍感さがうざったいのよ! もう二度と私の前に現れないで!」


 罵倒された後、力任せに叩きつけられたワッペンが目の前を跳ねた。


 一方的に罵倒されて肩のワッペンを机に叩きつけられた。


 無数の疑問が頭の中に渦巻く。蔑ろにしたことはないはずなのに、酷い言葉や傷つく言葉を言った記憶はないのに、なぜ私は怒鳴られなければならないのか。


 何か期待外れだったのかな。

 その理由も分からぬまま、別れを告げられた。私は人を信じられなくなっていた。


 もうサバゲーなんてやらない。誰も信頼しない。担任の教師を頼ったけれど、たかが知れている。


 期待なんて、信頼なんて、馬鹿馬鹿しい。


城西に入ったのも236部があったからだったのに、あんなに楽しかったのに。


 簡単に捨てられるものでもない。彼の、悠里の言葉は確かに言い得てると思う。


 けれどもう怖くて堪らない。

 裏切られるのが怖い。


 一週間も追いかけきて誘ってくれた。そんな罪悪感が胸を締め付けてきて振り払う。


 もう決めたことなんだ。なんで心を痛める必要があるんだ。


 決心を脳内で反芻して、暗い部屋から望む漆黒の夜空をただ見上げていた。

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