堕天使転生屋~今日も人間を異世界へ送る。トラックで~

大神律

トラックは転生屋だけを乗せる

 秋も近づく九月の初め、まだまだ昼空のクソ太陽は眩しく熱く、横断歩道を渡るがきんちょのゴリゴリ君も汗を掻いてやまない。漏れずに俺もその呪いゆえに汗ばんでは気も痩せそうだ。

 しかし仕事は仕事。俺は熱さに負けず、今日もトラックを運転する――――信号が真っ赤。ちゃんと待つ。


 「わー、トラックだー!」


 さっきのがきんちょが命知らずなのか、タイヤをベタベタと触っては頑張ってジャンプして俺に手を振ってやがる。人差し指しか見えないが。


 「こら、危ないでしょ!」


 ホントにだ。危ない。だが俺は仕事をしっかり遂行する男。親に怒られて担がれ、去っていくがきんちょの涙に微笑んで手を振って返す――――なぜがさらに号泣したが、何か間違っていたか? まぁいいか。


 我がトラックは弛まず進む。右ヨシ、左ヨシ、サーセーツー。この前後ろをぶつけて自己負担と言われたからな、ここは注意して左折。


 「さて、確か場所はこの辺……あれか」

 

 ここを曲がった先、俯いたままフラフラと歩いている短パンの男がいる。その先にはちゃんと青点滅の横断歩道がある。

 見晴らしは悪く、またちゃんと悪い道路。もしもあの男が次の赤信号に気づかず、このまま渡ろうとすれば、そして俺がここを右折しようものなら、こちらも気づかずに轢いてしまうかもしれない。うむ――――俺はアクセルを踏み締め、缶ビールを一気飲みし、弛まなくハイスピード右折した。


 ぎぃぃぃいいいいいん!――――何かが引き裂けるような音した。その後に憎い太陽の彼方を男の影が覆った。そのまま男はアスファルトに倒れた。血まみれで。


 「きゃあああああああああああああ!」


 してすぐにぶつかった悲鳴にドアが靡いて、俺は急いでその真っ赤な男へ駆け寄った。

 

 「大丈夫か!」

 「うっ……うっ……」


 どうやら意識があるらしい。当たり所が良かったのか、悪かったのか、致命傷ではあるが救急車を呼べば助かりそうだ――――まずい。どうしよう。


 俺がパニックになって何度も大丈夫かと叫び、その度に呻き声を聞きつつもさらに大きな声で叫び、思考する時間を稼いだ。この後どうしようか。

 そうしていたら遠くからピーピーと救急車のサイレンが鳴ってきた。さっきの女が呼んだらしい――――ま、まずい。どうしよう。


 「わ、私、看護師です! ほら、どいて!」

 「あ、ああ……」


 人が集まってきてその中から若い看護師の女が出てきてしまった。応急処置されてしまう。これでは――――ん? 女は手をピストルジェスチャーして男に向けた。


 パン。小さく鳴った掠れた音。その指先から空気の弾丸が出ては男の脳を貫いた。女は男にトドメを刺したのだ。しかしなぜだ?――――いや待て、この魔力は。


 「しくじんじゃないわよ」


 ルーちゃんだ。この魔力は若い女の姿をしているが上司のルーちゃんだ。俺の不手際を埋めてくれたらしい。


 「助かった」

 「生き残って怒られるのは私なんだからちゃんとしてよね!」

 「はい」


 そして男は救急車に乗せられ、ルーちゃんは付き添い、俺は警察に連行された。留置所につくとすぐに俺はこの身体を捨て、外であらかじめ身体を用意していたルーちゃんと合流し、身体を得た。


 「仕事完了」

 「はい、おつかれ」


 俺の名は炬口五郎。年齢二万五百数歳と三カ月のピチピチのおっさん悪魔だ。かなり厳つい顔でよく誤解されるが、怖がることはない。気軽にグッチーと呼んでもらって構わない。あ、言い忘れた。仕事は――――転生屋をやっている。

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