第5話

漱石の『夢十夜』の「第一夜」。美しい女が、「百年待っていて下さい」と言って死んでいくが、男が待ってみると、女は真っ白い百合の花になって蘇った、という物語。百年は永遠にも等しいと思われたが、「百年はもう来ていたんだな」と、男は気づく。


百年と聞くと永い永い時に思われるが、ウォルト・ディズニーの長編アニメーション映画にしても、もうすぐ公開から百年が経つ。


最初のカラーの長編アニメーション『白雪姫』は、頬紅をセルに塗ってぼかして、本物の化粧と同じ様に演出したそうだ。映像を観ると、確かに、フワッとぼかされた頬紅が姫を上品に美しく見せてくれている。


百合に変わった女も美しいが、百年経っても同じまま、変わらず美しい白雪姫を見ると、スクリーンのなかで若さを失わず生き続ける姫の方に、コロナの後にマスクを外した自分の顔を見て愕然とした自分は、憧れる。


「鏡よ鏡よ鏡さん。この世で一番美しいのはだあれ?」

などと鏡に聞いて見るどころか、むしろもうあまり鏡など見たくない年齢になってしまった。


それでもまだ、生まれてから百年は経っていない。

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