第29話 最終日にて

 新入生合宿、最終日。 


「「「うおおおおおおおっ!」」」


 早朝から、各地で大声が上がっている。

 合宿の仕上げとして、各自が得た成果を見せているのだ。


 そんな中、一際大きな声が上がる場所がある。

 ゼルア派閥と土派閥の合同特訓場だ。

 

「はああああっ!」

「うおー!」


 クルミとゼルアが魔法をぶつけ合っている。

 土を生成し合い、どちらが押し切るかの対決だ。

 これも派閥勝負の一つである。


「土では負けられない!」

「僕も真剣にいくよ!」


 ゼルアが“白”を使っていないため、対決は互角になるかと思われた。

 だが、地力でもやはりゼルアが上をいく。


「とあっ!」

「ぐああっ!」


 クルミが押し切られ、ゼルアの勝利だ。

 

「チッ、土なら勝機があると思ったんだけどな」

「クルミも強かったよ」


 また、後方ではゼルア派閥内が戦っている。


「今日こそ君に一発入れる!」

「寝言は寝て言うものですよ」


 クレアとミルフィの模擬戦だ。

 だが、今回は対決というより戦闘指導である。

 

「はああッ! ──【水流光線ストリーム・レイ】!」

「……!」


 その中で、クレアはちょくちょく惜しい場面を見せる。

 全体でも特に成長が顕著けんちょのようだ。

 その姿に、ゼルアとミルフィは感じる。 


(“白”の兆候……!)


 クレアの魔法の効果が高まっているのだ。

 次に“白”に至るのはクレアかもしれないと、ゼルアは期待がふくらむ。

 だが、エアリナとメルネも決して負けていない。


「ゼルア君! 私の魔法を見て!」

「あたしのも見なさいよ!」

「……! もちろん!」


 積極的にゼルアをたずね、二人も確かな成長をしていた。

 この数日で得たものは大きいだろう。


 そうして、合宿の最終日は過ぎていく。


 



 夕食後。


「勝負だ、ゼルア派閥!」


 例のごとく、クルミが勝負を仕掛けてきた。


 これから行われるのは“肝試し”である。

 明日は帰るだけのため、合宿最終日の恒例行事のようだ。

 だが、メルネが一歩前に出る。


「けど、もうあんた達に勝ち目ないんじゃない?」

「うっ……」


 この日は朝の対決に続き、何度か派閥の勝負を行っていた。

 だが結果は、四勝0敗でゼルア派閥が勝っている。

 もし肝試しで土派閥が勝とうと、すでに意味はないのだ。


 クルミはぐぬぬと考えた末、切り出した。


「だったらここで勝った方が百勝だ!」

「「「はああ!?」」」

 

 子どものような提案に、ゼルア派閥の女子陣は声を上げる。

 中でも、クレアは猛抗議した。


「君達にプライドってものはないの!?」

「そんなもの勝利に比べたらいらねえよ。お前たちも勝ったら百四勝だぜ。すごい圧倒的な勝利・・・・・・じゃねえか」

「バカ、そんな言い方したら……!」


 クレアは分かっていたのだ。

 その安い挑発に乗ってくるリーダーがいると。


「よし、やろう」

「ほらあああ!」


 ゼルアはクルミの提案を了承した。

 クレアはこれを恐れていたのだ。

 だがゼルアも、ただ面白そうだから乗っかったわけではない。


(最後まで可能性がないと、土派閥のみんなをがっかりさせちゃうよね)


 夜明け頃、クルミの想いを聞いていたからだ。

 一人で土派閥を背負うクルミに、譲歩してあげたかったのだ。

 その思惑通り、ゼルアが了承すると土派閥も活気づいている。


「これで一気に逆転だ!」

「最後まで諦めねえとは!」

「さすがクルミ様!」

「ゼルア派閥を吸収してやらあ!」


 対して、クルミもちらりとゼルアに目を向ける。

 その目は「すまねえな」と言って見えた。

 キリっと男勝りな表情に切り替えたクルミは、言葉を続ける。


「ルールはこうだ」


 まず、オバケ役は教官たち、移動は二人一組と決められている。

 それにのっとり、ゼルア・土派閥も二人一組を三ペア作る。

 三ペア合計で、三回声を出した方が負けだ。


「あとは、“他の組に干渉したら即敗北”。手助け厳禁ってわけだ」

「わかった」


 ルールを確認すると、クルミは人員を選び始めた。

 続いてゼルア達も二人一組を作ろうとする。

 だが、ゼルア派閥は五人・・だ。

 

「「「じゃんけん、ぽんっ!」」」


 結果、クレアとミルフィ、エアリナとメルネ、ゼルアがぼっちとなった。

 組が決まった所で、早速土派閥からスタートする。


「頼んだぜ、お前ら」


 クルミが声をかけたのは、土派閥らしい屈強な男二人だ。


「任せて下さい!」

「クルミ様のために!」


 男二人はガシっと腕を組み合って森に入る。

 順番は、土派閥とゼルア派閥が交互で行くようだ。

 クルミは勝ち誇った様子で口を開く。


「そっちは誰が行くんだ? こっちの一組目は余裕で帰って──」

「「きゃあ~!」」

「……」


 だが、すぐに男二人の高い声が聞こえてくる。

 早速ワンアウトだ。

 すると、ミルフィとクレアが前に出た。


「まったく情けない。私たちが行きましょう」

「う、うん!」


 ゼルア派閥の一組目は、ミルフィとクレアだ。


「坊ちゃ──ゼルア、私たちは一声も上げずに帰ってきますので」

「任せてよ、ゼルア!」

「二人とも! 頼んだよ!」


 その自身満々の表情に、ゼルアも強気で送り出す。

 しかし──


「「ひええ~!」」

「……」


 すぐに二人の叫び声が仲良く聞こえてきた。

 

(どんだけ怖いんだ……)


 これにはゼルアも若干不安になってくる。

 ならばと、土派閥はトップが前に出た。

 

「ったく、そろいも揃ってよ」


 ついにクルミが出るようだ。

 隣には右腕的存在の女子生徒も付いている。


「アタシが全くビビらずに帰ってきてやるぜ」

「「「クルミ様ー!」」」


 派閥に称えられる中、クルミはゼルアを見た。

 

「もちろんゼルアも次に来るよな?」

「……! わかったよ」

「そうこなくちゃ!」


 その挑発にはゼルアも受けて立つ。

 同じ二組目で行くことで、差を見せつけたいのだろう。

 クルミはそのまま勝気な表情で、進路へ入って行った。


 すると、エアリナが寄ってくる。


「ゼルア君、一人で大丈夫?」

「怖そうだけど、なんとか!」


 メリネも元気づけに来てくれた。


「頑張りなさいよね!」

「ははっ、ありがとう」


 二人なりのエールだ。


 そうして、クルミが行ってから数分。

 ゼルアは進路に向かって歩き出した。


「いってくる!」

「気を付けて!」

「頑張るのよー!」


 不穏な影が迫っているとも知らず──。





 しばらく経ち、クルミ組。


「はぁ、はぁ……」

「大丈夫ですか、クルミ様」

「な、なんとかな……」


 ゼルアの先をいくクルミは、右腕の少女に支えられながら進んでいた。

 ここまで数度驚かされているが、なんとか叫ばないでいる。


「そろそろ来そうだな」

「はい。前のオバケ役からそれなりに経ってます」


 クルミ達は警戒を強める。

 すると、予想通り斜め前から陰が現れた。


「ひっ──」


 クルミはつい声を上げそうになるが、すぐに引っ込めた。

 オバケ役の様子がおかしかったからだ。


「ぐ、あぁ……」

「え?」


 オバケ役は、そのままずしーんと前に倒れた。

 さすがに異変を感じたクルミ達は、とっさに駆け寄る。


「ど、どうしたんだ! おい!?」

「クルミ様、この方は……!」

「なっ!?」


 体をあおけにすると、その正体が分かる。

 土教官のマッチョスだ。

 だが、頭から血を流し、意識を失っている。


「そんなバカな……!」


 マッチョスは、人間で最上位の実力を持つ“人類軍”の一員。

 人間では・・・・倒せる者などほとんどいない。


「クルミ様!」

「……ッ!」


 すると、二人の前にすうっと一人の男が現れる。


「“白”の素質、クルミ・フォートレスはっけ~ん」

「「……!?」」





 同時刻、クレア・ミルフィ組。


「……オバケ役ではなさそうですね」


 ミルフィが両手にクナイを構える。

 その隣ではクレアが顔をひきつらせていた。


「嘘でしょ……」


 近くに水の教官セイラが倒れているからだ。

 クレアにとって、セイラはずっと上の存在。

 彼女が負けることは信じられないのだ。


 対して、二人の前に現れた男は口にする。


「クレア・ルミエールと接敵。即座にばくを開始する」


 森の中で、異常事態が起ころうとしていた──。

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