魔王の息子~魔王に育てられた最強の少年は、人間界で無自覚に常識をぶっ壊して無双する~

むらくも航

第1話 魔王に育てられた少年

 『人間と仲良くしたい』


 父さんがよく口にする言葉だ。


 でも、父さんは魔王で、人間とは相容れない存在。

 人間軍とは日々戦っているらしい。

 だから、僕が友達をたくさん作って持ちかけるんだ。


 “きっと魔族と人間は仲良くできるはず”って。


 そうして僕は、この地元──魔界を飛び立つ。


「よーし、行くぞー!」


 人間界の学院へ行くために!






<三人称視点>


「「「ウオオオオオオオオ!」」」


 とある赤い大地の中、集団の声が響く。

 人のような姿をしているが、顔や体格など、人間には見えない特徴がある。

 彼らは──“魔族”である。


「今日こそは倒す!」

「これで最後だからなあ!」

「くらえ俺の必殺技ぁ!」


 魔族は前方に向かって一斉に走り出した。

 目標にしているのは、たったひとりの少年『ゼルア』だ。


 対して、ゼルアは──


「よっ! とっ! たあっ!」

「「「……!?」」」


 一人一人を正確に対処していく。


 一番近い者を限りなく早くあしらい、遠距離攻撃もひょいとかわす。

 あまりに洗練された動きである。


 魔族たちも手は抜いていない。

 ただ、ゼルアが強すぎるだけだ。


 そうして、戦うことしばらく。


「はあ、今日も修行した~!」

「「「……っ!」」」


 魔族の集団は、ゼルアに全て倒された。

 すると、ゼルアの元に一人の男がやってくる。


「坊ちゃま、少々やりすぎでは?」

「クロード! でも今日で最後だからさ!」

「そ、そうでございますね……」


 男の名はクロード。

 彼もまた魔族であり、魔王軍では最上位の実力を持つ。

 しかし、クロードはちらりと集団に目をやると、ため息をついた。


「これでも一応、必死に鍛え上げているのですが……」


 この集団は、クロードの直属の部下だ。

 もちろんゼルアとも知り合いであり、日々共に修行をした仲でもある。


「坊ちゃん、強すぎますぜ……」

「結局、最後までこの実力差か……」

「俺の必殺技がぁ……」


 この日、ゼルアは故郷の魔界を旅立つ。

 そのため最後のお別れとして、魔族らしく戦いで見送ろうとしたのだ。

 だが、最後までボコボコにされてしまった。


 それでも、ゼルアには笑顔が灯っている。


「みんな、ありがとうね! こんな僕に今まで付き合ってくれて!」

「「「坊ちゃん……!」」」


 感謝をされて集団も喜ぶ。

 ゼルアに褒めてもらうことが何より嬉しいようだ。

 しかし、ゼルアにも不安はあるようで。


「ねえクロード、これぐらい修行すれば大丈夫かな」

「大丈夫とは?」

「人間界に行って、弱くていじめられたりしないかな」

「そ、そうですね……」


 返答に困るクロードだが、何かを諦めた顔で答えた。 


「まあ、これだけ強ければ問題無いでしょう」

「ほんと! よかった~!」

「ええ……逆に強すぎて・・・・問題アリかもしれませんが」


 だが、ボソっと漏らした本音はゼルアに届かず。


「なんだって?」

「い、いいえ! なんでもございません!」

「ふーん、そっかあ」


 和気あいあいと話す中、ゼルアの後ろに巨大な影が現れる。


「ゼルアよ」

「「「……っ!」」」


 見上げるほどに大きい図体だ。

 その姿には、クロードを含めた集団が一斉に頭を下げた。


「「「魔王様……!」」」


 彼は──“魔王”。

 広大な敷地を誇る魔界の大半を占め、名実共に魔界を統べる王である。

 だが、ゼルアだけは頭を下げていなかった。


「父さん!」

 

 この魔王こそが、ゼルアの育ての父だからだ。

 みんなから“坊ちゃん”と呼ばれるのも、このためである。


「みなに挨拶は済んだのか」

「うん! 今最後の修行をしたところ!」

「そうか」


 魔王の声は、恐ろしく冷徹れいてつだ。

 まさに全ての生物を黙らせるような怖さである。


「ならばゼルアよ、こちらに来い」

「……っ!」


 空間そのものを恐怖させるような雰囲気で、ゼルアを招いた。

 さすがのゼルアも身構える。


 そうして、魔王はすうっと手を上げると──


「寂しくなるのう!」


 ガバっとゼルアを抱き寄せた。

 

 声は急に高くなり、恐ろしさは途端に消え失せる。

 本性を表した魔王はゼルアを掴んで離さない。


「本当に行くのか!? 今からでもキャンセルしてよいぞ!? もう300年は一緒におっても良いのではないか!? ああ、それか我自らが人間界を滅ぼして──」

「……はあ」


 魔王は親バカだった。

 

 実の息子はおらず、何の因果かゼルアを育てた。

 そんなゼルアが可愛くてしょうがないようだ。


 ちなみにゼルアが身構えていたのは、この溺愛できあいっぷりと、ヒゲじょりじょりがうざったいからである。

 それでも、ゼルアは魔王に感謝をしている。


「父さん」

「む?」


 だからこそ、最後はしっかり伝えたかった。


 何でも力になってくれたこと。

 修行に付き合ってくれたこと。

 

 そして、何より──


「育ててくれてありがとう」

「ゼ、ゼルア……!」


 親になってくれたことに心から感謝をした。

 そんな言葉には、魔族の集団も号泣している。


「「「坊ちゃーーーん!」」」

「ご立派になられて……!」


 しかし、それゆえにゼルアにはやりたいことがある。


「だから、人間と仲良くしたいっていう父さんの願いを手伝いたい」

「……そうか」

「どうしてそう思っているのか、自分で目で確かめたいんだ」

「…………そうか!」


 対して、魔王も受け止めることにした。

 

 苦労はあるだろうが、魔王は確信している。

 自分と親子になれたゼルアは、絶対にやり遂げるだろうと。


 そうして、いよいよお別れの時が来る。


「じゃあ、行ってきます」

「ああ、気を付けるのだぞ」

「「「坊ちゃん、お気をつけて!」」」


 荷物を担ぎ、新天地へ向かうゼルアの表情はワクワクに満ちていた。


「いつかまた帰ってくるからねー!」

「「「お元気でー!」」」


 こうして、ゼルアは故郷の魔界を旅立った。





「行ってしまったか」


 ゼルアの方向を見つめ、魔王は寂しそうに言葉を漏らす。

 弱みを決して見せない魔王だが、今だけは目元が潤んでいた。


 そんな魔王に、隣のクロードがそういえばと話しかける。


「今更ですが、人間との戦いの真実・・は伝えたのですか?」

「……いや?」

「え?」

 

 すると、途端に場の雰囲気が変わった。


「言えるわけないであろう! 実はお主と同じ人間は“弱い”なんぞ!」

「そ、それはまあ……」

「魔王軍が手を抜いてやってる・・・・・・・から、今も拮抗してるなんてとても言えんわ!」


 魔界と人間界の境界線では、戦いが繰り広げられている。

 両者は拮抗しているかのように思えるが、実は全て“茶番”である。


 人間文化が大好きな魔王は、適度に手を抜いているのだ。

 もちろん、両者の被害者をなるべく少なくする方向で。


「なのに人間はそれに気づかず、もう少しで勝てるなどと言ってきよる」

「上層部が愚かなのかもしれませんね……」


 それゆえ境界線で戦っているのは、魔王軍の“補欠”だ。

 軍の若者はそこで経験を積み、魔王の元に帰ってくるという。

 ゼルアの相手をするために・・・・・・・・・・・・


 つまり、ゼルアがボコボコにしたのは、魔王軍の“本隊”だったのだ。


「人間軍より、ゼルアの修行相手の方がキツイらしいからのう……」

「それはまあ……はい」


 しかし、結局その真実は伝えず。

 そのためゼルアは、“ずっと魔王軍の下っ端と修行をしていて、人間は魔族と同じぐらい強い”と勘違いしている。


 もちろん魔王にも、こうする理由があった。


「ゼルアの向上心は異常じゃ。それを阻害したくなくてな。どこまでも成長していくゼルアが父として嬉しかったのだ」

「魔王様……」


 人と相容れない存在のはずの魔王は、父の目をしていた。

 それと同時に、人類をうれう目も。


「その結果、化け物が生まれてしまったわけじゃが」

「……はい」

「人間も少しびっくりするかもしれぬな」

「……少しどころではないかと」


 それでも、魔王は心配していない。

 ゼルアは真っ直ぐな子になったと自信を持って言えるからだ。


「ただし、育て方を間違えた覚えはない。ゼルアは正しく生きてくれるであろう」

「それは同意いたします」


 こうして、強くなりすぎてしまった少年ゼルアの、人間界での生活が今始まる──。





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