002 ~鳴くに、鳴かぬに~

毎朝庭に出ている。

春夏は芝生として植えたリッピアの繁茂を愛でる。


その脇には墓が二基。


鳩とネズミ。


ここ1,2年の間に、順番に庭で亡くなっていて、

きっとこの家を選んでくれたんだと思って墓を作った。


それだけのつながりだけれど、

なんだか縁がある気がして毎日拝んでいる。


目を閉じると冷たいと感じる風が頬に触れた。


「北風が吹くんだって。」


妻から聞いた早朝の言葉を今更のように思い出した。


そろそろ部屋に入ろうとして、立ち上がり、立ち止まる。


遠くから蝉の声がした。


「そっか、今まで夏だったんだ。」


などと独り言を言って季節の変化をしみじみ感じる。



夏の始まりと終わりに鳴く一匹の蝉に想いを馳せる。



鳴くに悲しき、鳴かぬに悲し。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る