イトノトリコ
山田
#1
僕の最近の趣味は、専らマッチングアプリだ。
デジタル化が進んだ社会でそれを大声で公言しても全く恥ずかしくないけど、未だに訝しげな顔をしてくる連中はまだ一定数いるんだよね。あっ、やっぱ全くってのは嘘。ちょっと歩行者天国とかで叫ぶのは恥ずかしいわ。
でも仕方ないじゃん、基本僕コミュ障だし。それこそパリビでもない限り、そうそう出会いなんか落っこちてないよ。まぁ、そんなこんなで、一生冴えない僕は自宅警備隊を勤続で5年もしている。
義務教育後は高校、大学と進んだ。それでもイマイチ定職につけない僕は、今日も部屋のベッドに寝っ転がってスマホの画面を眺める。流れるように入ってくる加工キツめの女の子を画面越しに漁って、取り敢えず個人チャットに連れ込む。最近は足跡とかいう機能が付いてるから、プロフを見ただけでも釣れたりするし。本当、便利な時代になったよね。
特別良いって子もいないけど、完全に守備範囲外以外なら取り敢えず誰でも良い──。
個人チャットに入った準お気に入りの子達がぶりっ子して返す言葉を見て笑うなんて、側から見たら気持ち悪い?いやでもさ、ほら……ネット上では可愛い女の子達がこぞってが僕を求めてくれるのって、荒んだリアルを過ごす人間にはクセになるほど心地いいもんなんだって……本当だよ?
ピコン……ッ
ほら、またなんか来た。寂しがり屋な僕を呼ぶ可愛い可愛いハニーのラブメールかな?
『今日って何か予定ありますか?』
へぇ……地味なフリーアイコンイラストの女の子だなぁ……えっ、マジで誰?僕こんな子知らないよ……?脳内で駆け巡るのは、いつもチャット越しにオナニーし合うあゆみちゃん、ほたるちゃん、通話専門のニカさんにゲーム仲間のとっちん──全く身に覚えのない彼女に興味が出た僕は、『空いてるけど誰?』って神がかり的な速さの即レス。
『えっと……先日投稿にいいねを頂いたクラウドです(*´꒳`*)』
うん知らん。本当に知らん。名前聞いても思い出せんわ。流れてくる投稿には基本愛情を全力で注ぐ自宅警備隊に釣られるなんて……この子、こーゆーアプリ初めてかなぁ?
『クラウドちゃん!ゴメンOK覚えてる!勿論良いよー』
ほら、嘘も方便ってヤツ?こういう可愛い迷える子羊ちゃんは保護してつまみ食いしないと。
『本当ですか\(//∇//)\ 私、銀座の近くにいるんですが、いつ頃お会いできます?』
えっ、銀座?あームリムリ……僕あーゆーとこ行くと頭と財布が痛くなっちゃうから本当パス。流石に初デートで折半はさせらんないから、月島あたりでもんじゃにしてもらえないかな……。
『銀座かー。ちょっと遠いから、月島あたりならいつでもOKだよ』
うんうん、これで大丈夫。もし無理って言われても、行かなければ良いだけの話だし。今月は推しのグラビアが出るから、財布が忙しいんだよねー。ま、ワンナイトできるならそれはそれで嬉しいんだけどさ。
『了解です(о´∀`о) では1時間後に月島駅で!』
ホイきた!やっぱりウブな子は可愛がり甲斐があっていいわ。てかこの子も結構肉食系だったりする?一応、ゴムも持って行こ。
いつも使ってる鞄に財布がある事を確認した僕は、タンスにしまってあるゴムの袋をいくつか引っ掴んで入れると、外出用の服を漁った。
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