第19話  新たな試練⁉ ステラの決断と光の騎士たち!

 リリカ、エリオス、レオンが町での自由な時間を楽しんでいる一方で、王宮の応接室には緊張感が漂っていた。ステラはメルヴィルに付き添われ、重々しい扉をくぐり抜けて中へと進んだ。そこには、エルファルド国王、アレクシス王子、そして初対面となる騎士団団長とその部下である「六光の騎士」と呼ばれる六人の騎士たちが待ち構えていた。


 応接室に足を踏み入れると、ステラは騎士団長ガレッドの鋭い視線を感じた。彼はかつて十年前、魔導士との戦争で国を守り抜いた英雄であり、メルヴィルの実の兄でもあった。騎士たちは、その名の通り、光のような存在感を放ち、威厳と誇りに満ちた立ち姿で応接室の空間を支配していた。


 メルヴィルはステラの隣に立ち、ガレッドに向かって口を開いた。


「ガレッド、ステラは私が育てた猫耳魔法大隊の隊長です。彼女の実力を試したいという気持ちは理解しますが、どうか穏便にお願いできませんか?」


 しかし、ガレッドは微動だにせず、その強い意志を崩さなかった。


「メルヴィル、弟だからこそ厳しく見極めなければならない時もある。猫耳魔法大隊が我々の戦力となり得るか、直接確かめるのが最も確実だ。」


 ガレッドの言葉に、メルヴィルは悔しそうな表情を浮かべたが、それ以上反論することはなかった。アレクシス王子もまた、説得を試みるように一歩前に出た。


「ガレッド団長、彼女たちの実力は我々も信頼しています。実戦を求めるのではなく、まずは協力し合うことで未来を築くことを考えていただけないでしょうか?」


 だが、ガレッドの表情は変わらず、重々しく頷くだけだった。


「申し訳ありませんが、王子。その信頼を得るためにも、実力を見せてもらわなければならないのです。」


 ステラはその様子を黙って見つめていたが、やがて意を決したように一歩前に出た。


「ガレッド団長、あなたの申し出を受けます。リリカにはまだ相談していませんが、私一人でも戦う覚悟はあります。」


 ステラの毅然とした態度に、その場にいた者たち全員が静まり返った。彼女の決意は固く、揺らぐことはなかった。メルヴィルはステラに近寄り、小さな声で忠告した。


「ステラ、少し考え直してみてはどうかしら?リリカと話してからでも遅くはないのよ。」


 しかし、ステラは頑なに首を横に振り、ガレッドに向き直った。


「対戦日時、対戦場所、対戦方法もすべてお任せします。でも、必ず七人まとめてギャフンと言わせてみせますから!」


 その言葉には強い決意が込められており、ステラの瞳は燃えるように輝いていた。ガレッドはその様子を見て、静かに頷いた。


「いいだろう、ステラ隊長。その覚悟、見せてもらう。」


 会談が終わり、応接室を後にしたステラはいつもとは違う不機嫌な様子だった。彼女の眉間には深い皺が寄り、焦りと怒りが混ざったような表情をしていた。アレクシスはその姿を見て、すぐにステラの元へ駆け寄った。


「ステラさん、大丈夫ですか?どうか少しでも気を落ち着けて…」


ステラはアレクシスの声に気づき、振り向いたものの、その不機嫌さは隠せなかった。


「アレクさん、ごめんなさいね。こんなことになるなんて思っていなかったわ。でも、あの人たちに私たちの実力を疑われるなんて許せないの。」


 アレクシスはステラの肩に手を置き、穏やかな声で語りかけた。


「ステラさん、実はガレッド団長は僕の剣術の師匠なんです。彼は、十年前の魔導士との対戦で女王陛下を守れなかった責任を今も感じているようです。だから、君たちの実力を確かめることに固執してしまうんです。」


 ステラはその言葉に一瞬驚き、アレクシスを見つめた。


「そうだったの…」


 アレクシスは頷き、さらに話を続けた。


「ごめんなさい。言葉は悪いですが、彼ほど国を思う人はいません。彼には子供がいませんが、孤児院で剣術の指導者としても慕われていて、多くの子供たちにとっては父親のような存在なんです。」


 ステラはその話を聞き、ガレッドに対する印象が少しずつ変わっていくのを感じた。アレクシスは続けた。


「僕の権限で今回の試練を取り下げることもできますが、それをしてもガレッド団長には遺恨が残るでしょう。彼らの意見も一理あるし、正論だとも思えてしまう。ごめんなさい、ステラさん。」


 ステラはふと立ち止まり、アレクシスに目を向けた。自分が一人で熱くなっていたことに気づき、思わず顔が赤くなった。


「私、一人で『ギャフンと言わせる』なんて言っちゃって…アレクさんに口が悪いなんて言われたらどうしようって、ちょっと焦っちゃいました。」


 アレクシスはその言葉に笑みを浮かべ、優しくステラを見つめた。


「ステラさん、あなたの気持ちは分かりますよ。僕も彼を説得することができなかったことを申し訳なく思っています。でも、君が言ったことは気持ちの表れだし、僕はそんな君を尊敬しています。」


 ステラはその言葉に救われた気持ちになり、少しほっとしたように笑った。


「ありがとう、アレクさん。私、リリカに相談してみる。自分の言葉には責任を持たなきゃね。」


 森の中は静かで、緑の木々が優しく揺れ、鳥たちのさえずりが心を癒してくれるようだった。アレクシスとステラは木漏れ日の中を歩きながら、しばし無言のまま過ごした。


 やがて、ステラは深呼吸をし、森の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。


「ありがとう、アレクさん。少し冷静になれた気がする。」


 アレクシスは微笑み、ステラの言葉に安心したように頷いた。


「こうして少しリラックスするのも大切ですよ。ステラさんは強いけど、無理をしすぎないでくださいね。僕も応援していますから。」


 ステラはアレクシスの言葉に頷きながら、少しだけ笑みを浮かべた。


「アレクさんの言う通りね。私、いつも頑張りすぎちゃうから…でも、今回だけは譲れないわ。」


 彼女の言葉には、リリカや仲間たちへの強い思いが込められていた。アレクシスはステラの決意を尊重し、静かに頷いた。


「リリカさんもきっと理解してくれますよ。君たち二人なら、どんな試練も乗り越えられるはずです。」


 ステラはその言葉を胸に刻み、決意を新たにした。彼女の心には、リリカと共に戦う覚悟がますます強く根付いていた――。

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