第71話

 白い花が室内に飾られて、神殿の司祭が前に立ち、長々と話している。招待客が椅子の前に並んでいる。


 オレは今、あの日、シアを眺めていた客席ではなく、隣にいる。オレの手にシアの温かい手を重ねて儀式が続いていく。時折、見つめ合うと彼女の目に映る自分がいることが本当に夢のようだった。


 自分の気持ちに蓋をして、諦めようとしていたけど諦めなくてよかったと思う。見失わないでここまでこれたことに感謝したい。


「アル?」


 じっと見つめるオレに首を傾げるシア。……見すぎていたかな。


「いや……なんでもない。幸せだなぁと思ったんだ」


「私も幸せです。ここにいることが、奇跡のような気がします。アルのおかげです。ありがとうございます」


 少し頬を赤く染める彼女は綺麗だった。一分一秒の彼女を見過ごしたくないくらい綺麗だと思う。


 ……でも、シア。彼女は隠し事をしている。一つだけオレに言ってないことがある。オレが気付いていないと思っているのかもしれない。それを今は言うタイミングじゃない。今夜、尋ねてみようとオレは思っている。


 両手を伸ばして抱きしめようと思ったが、オレはやめた。手を繋いで、外へ続く階段を歩いて行った。


 白い鳥が青空を飛んでいく。わああっと歓声があがる。儀式が終えて、外に出ると領民たちが手を振っていた。シアとオレは大勢の人にお祝いされた。本当の夫婦としてお披露目が無事に終えることができた。


 そして式の後に時間をとり、フランに王になる気はあるか?と尋ねてみた。


 僕が王!?と最初は驚いていたフランだったが……。


「なれるように努力してみます。お父様、僕が……あのオースティン殿下のようバカになったら、ハッキリと王になるなと言ってくれませんか?」


 フランの目は子供らしくなかった。だけどそれはなにかを覚悟した目だ。フランが選んだ道は子供らしくいられないことが、この先もっと増えるだろう。でもそのぶん、きっとオレとシアが甘やかすだろう。


「わかった。オレもフランの後継人として、必ず力になることを約束しよう」


 一人で抱え込まなくていい。とオレはフランを安心させる。お願いしますとフランは頭を下げた。


「あの父上のバカな血が入ってると思うと不安なんです。でも僕が断ると、簡単に即位をしてしまうので、させたくありません。だから引き受けます。母様にしたこと後悔してほしいですからね!僕が王になる意思を伝えておけば、すごーく少ない確率ですが、心を入れ替えて頑張るかも?でも変わらないなら、僕がなります。そうすればアルも……大好きな母様も王様になったら僕が守れますよね」


 フラン、まさか……シアのこと大好きすぎて、覚悟を決めたのか!?フランが王になることで、確かに邪魔なオースティンは城から出されて、どこかの領地へとばされるだろう。そういうことまで、頭に入れてるのか!?


 もしかして……だが、オレの最大のライバルってフランかもしれない。そしてシアを不幸にしたらフランがものすごく怖いかもしれない。


 まぁ、でもフランとオレの目的は、同じのようだから、きっとこの先も仲良くやっていけるだろうな。これからもよろしくとオレはフランに言ったのだった。

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