第57話
嫌がらせを受けつつも、私はなんとなくワギュレス修道院になじんできた。三日もいればなじむなんて、私ってなんて順応性が高いのかしらと思う。
焦りがないのは、フランはアルに守られているし、周囲の人達も優しくて、きちんと育ててもらえてるという安心感からだと思う。そうでなければ必死でここから出ようとしたに違いない。
よく考えたら、バツイチの私よりも、ふさわしい人はたくさんいる。アルの女嫌いが治れば、素敵な女性たちに目がいくだろう。フランは必要だろうけど、私が必要というのはフランが成人するまでだろうから……これでよかったのかもしれないと小さな肯定が心の隅に生まれてくる。
「嫌がらせされてるんですって?わたしから言いましょうか!?」
同室の私の面倒を見てくれている、三つ編みの修道女が少し怒ったような顔で言う。私は微笑んで首を横に振った。それはいいのよと。
「そうなの?我慢することないのよ。修道院長にお話しすれば、嫌がらせしている修道女は罰せられるし、あなたも平穏にすごせるわよ」
大丈夫とうなずいて見せる。
「優しいのね……」
私をそう思ってくれる三つ編みの修道女。でも違うわ。優しいんじゃなくて、騒ぎを起こしたくないだけだもの。
あれ?これって前にも私、思ったことない?
騒ぎを起こさないように?我慢する?
私はまた我慢してることに気付く。王宮にいた時もそうだったじゃないの。
『事なかれ主義』それは臆病で、怖がりな自分のためにあるだけだ。
王宮の時だってそうだったじゃない?嫌なことも痛いことも苦しいことも、静かに自分さえ我慢していれば、いつか嵐はすぎるって思ってなかった?いつかオースティン殿下は私やフランを大事にしてくれるようになる。いつか私も王家に認められる日が来る。
こないであろう『いつか』を待っていた。
それ……もうやめたほうがいいのかもしれない。ふとそう思った。その考えの先にはアルがいた。やっぱり……会いたい。フランだって大切であの子がいらないと自分で言うまでは一緒にいたいの。
アルに会いたい。フランに会いたい。フランとアルと一緒にすごした日々を私はなくしたくない。やっぱり一緒にいたい。どうしてこんなことになったのかわからないけど、やっぱり違うわ。我慢している場合じゃないわ。二人に会いたい。公爵家の皆のところへ帰してほしい。
ポロポロと涙がこぼれる。……この涙は計画的なものだった。
涙を見て、三つ編みの修道女は怒りを含みつつ、悲しそうな顔をした。
「やっぱり!いやなんでしょう!?修道院長のところへいきましょう!」
私はうなずいた。いじわるしてくるあの修道女には悪いけど、この状況を利用させてもらうことにした。この同情してくれた本当に優しい三つ編みの彼女も利用することになるのはとても後ろめたいけど……これで修道院長に会えるわ。会って、どうにかしなくちゃ!私はアルのもとへ帰る!フランとまだ離れたくない!
そう私は決心し、部屋から踏み出したのだった。
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