第37話
次の日、朝食の場で見せたアルの顔色はあまりよくなかった。
やっぱり体調悪いのかしら。もしかしてアレルギー反応!?私と触れたせい?でもあの時は大丈夫だった気がしたけれど、後から出てきたのかしら?
『アレルギー反応触った時はでていませんでしたよね?』
『あのアイヴィーという方はどうなりました?』
『まだ私に怒っていますか?』
色々疑問を投げつけたい。でもこの空気では無理だわ。それに図々しいわよね。アルのことをあれこれと契約妻が聞くものじゃないわ!自制しなきゃ!
静かな空気が朝食の場に流れている。
「僕、学校のテストで一番とったんです!」
フランが朝食を食べながら、アルにニコニコしながらそう伝える。フラン!ありがとう!あなたがいるだけで、食卓に明るさがでるわ!思わず心の中で感謝した。
アルは顔をあげて、よかったなと笑って、コーヒーだけを口に含む。どうやら食欲もないらしい。
「シア、怪我は大丈夫か?手首痛めていただろう?」
「はい。多少痛みますけど、平気です」
ニコッと笑うと、少し安堵の表情になるアルだった。なにかしら?なにを不安に思ってるの?と私が不思議に思っていると、フランがいなくなってから、アルは口を開いた。
「実はアイヴィーのことだが……」
「言いたくないことは言わなくても大丈夫です」
「え?気にならないのか?」
すごく気になります。でも我慢よ!忍耐よ!私!!
ぐっと堪えて、アルの前では平然とした私を装う。
「私とアルは契約をかわした仮の夫婦です。私、アルのことを探るなんて、出過ぎた真似をしてしまったと思ってます。ごめんなさい」
アルは眉をひそめて、難しい顔をした。あれっ?私、なにか間違えたかしら?
「そうだな。だけど契約した夫婦といえど、何をしても良いという許しにはならない。嫌なことは嫌だと言っていいんだと……オレは思うけど?シアはどう思った?」
え!?と思った。正式に結婚したはずのオースティン殿下だって私の思いなんてどうでもよかった。だけどアルは契約上の夫婦なのに私の思いを聞いている?
言ってもいいの?少し躊躇う。でもアルが促すようにこちらを見ている。
「あの……実は……私、嫌でした」
フッとアルの険しい表情が緩んだ。
「そう正直にシアに言ってほしいと思うオレは変かな?」
「いえ、私の気持ち聞いてくれる人、なかなかいなかったので、嬉しいです」
アルは水を一口、飲んだ。部屋にはもともとシリルしかいなかったが、アルが出ていくように目で合図をすると、シリルが一礼して出ていった。
「アイヴィーには久しぶりに会った。10年以上ぶりだと思う」
「10年以上会っていなかったんですか!?」
「そうだ幼い頃、よく公爵邸にきていて、遊んだ。アイヴィーの方が5つほど年上なんだ」
「幼い頃から仲が良かったんですね。でもそれなのにずっと会ってないとは……?」
アルは私の一言に苦いものを食べたような顔をした。
「オレが結婚したと聞いて、屋敷に乗り込んできたんだろう。オレとアイヴィーでは互いの認識がずいぶん違っていて、オレはアイヴィーのことは姉と思っていたんだ。幼い頃、遊びに来るたびに親しく、優しく面倒を見てくれていたんだ。それなのに、アイヴィーはいつからかオレに姉以上の気持ちを持ち出してきて……」
これ続く!?
「ちょ、ちょっと待ってください!話さなくてもいいんですよ!?」
「話せるところだけ話す。アイヴィーにはオレはそういう感情は嫌だと言った。だけど……ある日……庭園で遊んでいて、使用人たちが少し目を離した隙にオレを連れ出したんだ。『アル、大好きよ。アルはわたくしの物。アルだってわたくしのこと大好きなんだから。良いところ連れていくんだから、黙ってついてらっしゃい』と顔は笑っているが、怖い顔になって……ある場所に連れて行かれて閉じ込められた。運悪く天候も荒れだし、雷がアイヴィーの怖い顔を照らして……」
どんどん顔色が蒼白に近くなるアル。これがアルのトラウマなのね……。限界だと思ったのか話すのを止めた。静かになる。
「今のところ話すのはこれだけで……許してほしい」
「いいえ。アルの様子からして、辛かったことなのだろうとわかります。それなのに話してくれてありがとうございます。アレルギーになってしまうくらい辛いことだったんですね」
「いや……女アレルギーになったのは……その後の女性のこともある」
は!?どういうことなの!?
「後!?まだあるんですか!?」
はあーーー……と深ーーいため息をつくアル。それも女性関係だとしたら、もうそれは……。
「アル……それはもう女難と言うしかありません」
「ハハハ。幼い頃はこれでも『天使の笑顔』ともてはやされてたからな!後は地位もお金もあるから、寄ってくる女性は数しれずだ!」
乾いた笑いと半ばヤケクソ、自嘲気味に言うアル。他の人が言うと『おいおい。自惚れるな』と言われるかもしれないけれど、アルの綺麗な顔立ちと公爵家の繁栄を見ると納得してしまう。
「いつかアルが話したくなったら言ってください。話したら楽になることもあるんですよ」
そう私が言うと、アルはありがとうと笑った。いつもどおりの和やかな雰囲気が戻る。
だけど席を立つ前にアルは私に言った。
『アイヴィーに気をつけろ』と。
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