第35話

「アル!!会いたかったわ!!」


 アイヴィーが目を潤ませる。泣きそうな顔をしている。そしてその勢いで、アルに向かって抱きつこうと駆け寄る。


 アルがやめろ!近寄るな!と叫ぶ。いつものアルなら女性一人、避けることなど簡単だろうけど……今、とても動揺している。


 女アレルギーになっちゃう!?私はアルの身の危機に気づき、守ろうと、床を蹴って、エイッと自分の体を二人の間にいれる。


「シア!あぶないー!」


 アルが心配する声。大丈夫!!と私はアイヴィーをガシッと受け止め……られず、ぶつかった勢いで、床に尻もちをついた。お尻が痛くて、涙目になる。手をついた拍子に手首も変なふうについてしまったらしく、痛みがある。きゃあと小さく悲鳴をあげて、アイヴィーも倒れたが、私が下敷きになり、クッションになった形になったため、怪我はなさそうだった。


 私の上で、もうっ!なにしてますの!と怒っているが、いいからどいてほしい。


「痛いから、すみませんが、アイヴィーさん、どいてくださいっ!」


「何をしてる!シア!!大丈夫か!?」

 

 アルが私の腕をとり、アイヴィーの下から抜け出せるように、立たせる。そして心配そうにのぞき込んだ。


「だ、大丈夫ですっ……痛いけど……アルは大丈夫でしたか?」


 苦手なんでしょう?とちょっと間抜けだけど、お尻や腕を抑えつつ、聞く。


「オレは怪我をしていない!触れられてもいない!シアこそ大丈夫か!?なんで飛び出した!?」


「え?だって、アルが具合悪くなったら辛いかなと思ったんです……もの……怒ってます?」


「怒ってない。ただ、シアが怪我をしてまで、オレを守るのはやめろ。手首を見せてみろ」


 私の手首が少し腫れているのを見て、顔をしかめる。


「シリル!医者を呼べ!」


「は、はい!」


 周囲で見守っていた使用人たちが動きだす。シリルはいなくなり、ジャネットは他のメイドに氷を持ってくるように指示を出す。


「わたくしのこと無視しないでいただけるっ!?」


 アルが額を抑える。


「わかった。とりあえず、客間へ行け。案内してやってくれ」


「もちろん一番いい部屋ですわね?」


「なんでもいいから、行っていろ」


 わかりましたわと言いながら、アイヴィーは客間へ案内されていく。


「アル、あの方は……もしかして……本命の彼女ですか?」


 アルの目が大きく見開く。


「はあ!?」


「アルと親しげに名を呼んでいたので、もしかしてと思いました。アルは好きだけど、女アレルギーがあるからと、身を引いたのですか!?」


「どうしてそうなる!?想像しすぎだろう!?」


「いえ……つい、過去の経験から想像してしまいました、違っていたらごめんなさい」


 結婚したら他の女がいましたパターンってあるあるなのかしら?とつい、妄想してしまった。なんだか前の結婚のせいで、麻痺してる私なのかもしれない。私の言葉にアルは必至な顔で否定した。


「オースティン殿下とオレは違うっ!」


「それはわかっていますけど、私たちは本当の……」


 夫婦じゃないでしょう?と言いかけ、アルが待て!と止めた。


「さっき……オレ、シアに触れてなかったか?」


「え?そういえば……私の手を握り、立たせてくれました!」


 思わず口を私は抑える。アルが自分の手をじっと見る。


「なんともないな……」


 体調も悪くならない!とアルがパッと明るい顔になり、嬉しそうになった。


「もう一度、触れてもいいか?」


 改めて聞かれると、ドキッとした。私がドキドキしてうなずきかけた時だった。


「いいわけないですよっ!早く手首を冷やしてください。痛めてましたねっ!後からその臀部とやらもお医者様に見てもらいますから!他にもぶつけた個所があればおっしゃってくださいよっ。シア様は自室へ行って安静にしてください!」


 ジャネットがものすごく心配していて、手首を冷やしくれ、さらに大丈夫ですか!?担架とかいらないですか!?部屋まで抱きかかえていきましょうか!?というのを私はやんわりと断った。


 しかしバタバタと慌てている周囲にうながされて、私は自室へ連れていかれたのだった。アルは治療してもらうといいと見送っていた。


 私は自分の痛みよりも……手当をしている間中、アルとアイヴィーは二人でなにを話すのかと気になってしまった私だった。

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