第12話
シアにつけていたメイドの一人、ジャネットが旦那様、少し良いですか?と声をかけてきた。
「どうした?何か問題ごとが起きたか?シアがおまえでは駄目だとでも言ったか?」
ジャネットの見た目はちょっと気になるところがあるものの、中身はとても優秀で、性格もよく、信頼できる。だからこそシアにつけた。
見た目で、馬鹿にしてる!とかもっとまともなメイドはいないの!?と怒る令嬢がほとんどだったが……もしやシアもそういうタイプだったか?
「いいえ!シア様はとても良い方です!旦那様、ぜーーーったいに逃してはいけません!」
ウルウルと目を潤ませているジャネット。感動すらしているようだ。どうやらジャネットの中身をシアはわかってくれたらしい。
そんな女性、初めてだな。試す訳では無いが、シアは見た目で人を判断しない女性なんだなとわかった。
「……で、なにがあった?」
感動して浸っているところ悪いが、話を促す。フッとジャネットの顔が曇る。
「実はですねぇ……シア様には口止めされたんですけどね……」
「なんだ?」
「実は身体に……」
言いにくそうにジャネットが口を開き、止める。
「身体?シアの身体を見たのか?」
「いえいえいえいえ!!腕しか見てはいないですよ!?ちゃんと測るための薄い服は纏ってもらいました!ドレスの寸法測るためにしたんですよ!?」
「……別になにも疑っていないし、なにも追求してないが?」
「安心してください!このジャネット!間違いなく心は乙女なので!」
「……だから、なにも言ってないだろ!?」
「旦那様の大事な奥様に手を出したとか思われるのは心外ですからね」
「前置き長いぞ」
ジャネットがそうだった!と我に返る。
「シア様の身体には、古いもののアザが残ってまして……それはたぶんオースティン殿下に……」
ハッとした。そうだ。あいつならやりかねない。小動物を物のように扱っていたのを思い出した。シアやフランをどう扱っていたのか頭に浮かぶ。
あのやろうと悪態をつきたくなった。シアはどれほどの痛みや苦しさを我慢してきたのだろうか?辛かったことを見せない明るいシアしか見たことのないオレは彼女の強さに感心した。
でもそれはオレがまだ信用されてないってことかもしれない。信用してもらうことができたら、本当の彼女を見ることができるか?それはどんな姿なんだろう?
……いや、こんな契約上の結婚している時点で無理か。
「話したくないこともあるだろうから、今は知らないふりをしておく。知らせてくれてありがとう」
「いえ、シア様には言わないでと頼まれたのですが……でもっ、あたし、あたし、あたしはどうしても許せなくてぇっ!」
落ち着けとジャネットをなだめるものの、オレも気分は良くなかった。ここまで酷いとは正直思わなかったのだ。愛人にうつつを抜かして、大事な王位継承権をもつ子どもと正妃を放りだしたバカ王子。という認識程度だった。いらないなら、貴重な王家の血のはいった子どもとそして……あの結婚式で見た美しい妃をオレがもらってもかまわないだろ?と。
ため息を一つ吐く。
オレもシアも公爵家という立場的に、いずれあのバカ王子と対峙する日が必ずくるだろう。もしかしたら陛下とも……?
感極まり、うおおおと男泣きしだしたジャネットの声で思考が中断された。さっさと仕事に行けと、部屋から追い出したのだった。
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